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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

交通事故重要判例

鑑定意見書を否認して被害者側主張入院期間全てを認めた判決紹介

○「軽微追突33歳歳男子頸部挫傷等48日入院を17日に限定した判例紹介」に引き続き、この平成26年4月24日東京高裁判決(自保ジャーナル・第1925号)の第一審である平成25年3月26日横浜地裁相模原支部判決(自保ジャーナル・第1925号)を紹介します。

○第一審平成25年3月26日横浜地裁相模原支部判決は、被害者側主張に沿った判決で、保険会社側医師の入院期間に関する鑑定書を否認して、被害者原告側で主張した実際の入院期間全てについて事故による傷害との因果関係を認めています。以下、この判決の判断理由のうち、原告Xの入院期間全てについて事故との因果関係を認めた部分全文を紹介します。

○相当入院期間判断についての、以下の基準が被害者側としては使える表現です。
交通事故による受傷を理由とする被害者の入院の必要性及び相当性は、被害者が医師に入院を要望したなどの働きかけが見られた場合などの特段の事情が認められた場合はともかく、原則として日々の診療を担当し、被害者の症状及びその変化を診察・診断している医師の判断によるべきであって、軽々にそれを不相当と判断すべきものではない。なぜなら、一連の診療経過を後に至り遡ってみていけば不相当といえる場合があろうかと思われるが、それは被害者の症状の経過が全部分かった後のことだからいえるのであって、当該担当医師には追突事故による受傷という情報及び被害者の現在の症状等から、予測が困難な病状の変化を診断しているのであって、被害者のために念を入れて入院させた上で治療をする(入院させなかったり早期に退院させたときの方が後に病状が悪化した場合など医師の責任が問われかねない。)という選択をすることは医師の裁量の範囲内というべきだからである。


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第四 当裁判所の判断
1 前記争いのない事実等及び証拠(略)並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
(1)
ア 原告ら4名は、平成18年7月24日、高校3年生の原告Vの通学する高校の3者面談を受けるため、軽ワゴン車である原告車(マニュアル車)に同乗して、b市を出てg市の本件事故現場に差しかかった。
 その時、原告X(昭和48年生の33歳。当時c市在住)が運転しており、原告W(昭和44年生の36歳。当時b市在住)は助手席に、原告V(昭和63年生の17歳。当時b市在住)と原告U(平成5年生の13歳。当時b市在住)は後部座席にいた。原告Xと原告Wはシートベルトをしていたが、原告Vと原告Uはしていなかった。

イ 原告Xは、前方の信号が赤信号であったため、本件事故現場で、ギアをニュートラルにしてフットブレーキを踏んで停止していたところ、タクシーである被告車(3ナンバーのセドリック)にノーブレーキで追突された。
 追突直前の被告車の速度は時速5㌔㍍くらいであったので、被告車の損傷は軽微であったが、原告車は後部のマフラーが落ち、後部バンパーが破損した。その修理見積額は概算で約2万円である。

(2)
ア 本件事故により、原告Xは後頭部をヘッドレストに打ち付けるなどし、頸部挫傷、腰部挫傷、両側顎関節症の、原告Wは後頭部をヘッドレストにたたきつけられるなどし、頸部挫傷、腰部挫傷の、原告Vは首が振られるなどし、頸部挫傷、腰部挫傷、右眼球打撲疑いの、原告Uも首が振られるなどし、頸部挫傷、腰部挫傷、左側顎関節症の、各傷害を負った。

イ 原告らは、直ちに救急車によりD整形外科に搬送され、治療を受けた。

(3)
ア そして、原告Xにつき、項・頸・肩・背・腰痛、バレリュー、両手しびれ等が激しく、体動・歩行困難であるとして、入院が必要と診断された。

イ 原告Wについて、頸・肩・背・腰痛、頭痛、嘔気、めまい、両上肢痛、両手しびれ等が激しいとして、入院が必要と診断された。

ウ 原告Vについても、頸・肩・背・腰痛、頭痛、嘔気、めまい、両上肢痛、左手しびれ等が激しいとして、入院が必要と診断された。

エ 原告Uについても、頸・肩部痛、嘔気、両上肢痛、左手しびれ、頭痛等が激しいとして、入院が必要と診断された。

オ ところが、D整形外科に空きベッドがなかったことから、系列の病院であるF整形外科に入院することとなり、同日、原告ら4名とも転送された。

(4)
ア その後、原告らは、前記争いのない事実等(5)の入通院による治療を受けた。

イ 原告Xは、F整形外科入院中、患者との関係で他医院への転院を希望し、系列のD整形外科へ転院した。

ウ その後、原告らは、自宅のあるc市内の病院への転院を希望し、その時期はやや異なるが、E病院へ転院し、同病院の診察の結果、入院相当と診断されたので、これに従った。

(5)
ア 原告Xは、上記入通院により獣医としての仕事ができなかった。

イ 原告Wも、上記入通院によりその獣医業の手伝いと家事労働ができなくなった。

ウ 原告Vは、3者面談を受けられず、進路決定に遅れが生じた。また上記入通院によりアルバイトができなくなった。

エ 原告Uは、一時、精神的に不安定な状態となった。

2 争点1について
(1) 本件は、労災といえる交通事故ではなく、単なる交通事故であるから、労災保険の認定マニュアルの基準①ないし④により、入院の必要性を判断することは相当でない。被告らの主張は採用しない。

(2) 交通事故による受傷を理由とする被害者の入院の必要性及び相当性は、被害者が医師に入院を要望したなどの働きかけが見られた場合などの特段の事情が認められた場合はともかく、原則として日々の診療を担当し、被害者の症状及びその変化を診察・診断している医師の判断によるべきであって、軽々にそれを不相当と判断すべきものではない。なぜなら、一連の診療経過を後に至り遡ってみていけば不相当といえる場合があろうかと思われるが、それは被害者の症状の経過が全部分かった後のことだからいえるのであって、当該担当医師には追突事故による受傷という情報及び被害者の現在の症状等から、予測が困難な病状の変化を診断しているのであって、被害者のために念を入れて入院させた上で治療をする(入院させなかったり早期に退院させたときの方が後に病状が悪化した場合など医師の責任が問われかねない。)という選択をすることは医師の裁量の範囲内というべきだからである。

 したがって、追突事故による頸椎挫傷、腰痛挫傷に対する治療のための入院が相当長期にわたらない限り、担当医師の裁量の範囲内であり不相当とはいえないというべきである。しかして、原告らを診療したいずれの医療機関の担当医師において、本件の追突事故が軽微であると認識していたことを認めるに足りる証拠はない。

(3) 後に判示するとおり、原告らはE病院においても入院治療の必要があったから、その前の入院先であるF整形外科又はD整形外科における入院治療もまた病院の指示がある以上、原告らが医師に入院を働きかけたなど特段の事情が認められない本件では、医師の裁量として、いずれの入院措置もまた相当と認められるというべきである。

(4)
ア まず、原告Xについて検討する。
 証拠(略)によると、次の事実が認められる。
(ア) 平成18年8月15日における原告XのE病院における主訴は、首痛、腰痛であり、脊椎腰椎の単純X線撮影の結果、腰椎の4番5番の前方に骨棘あり、前方脊椎椎間板が狭く、前屈で前方が狭い、後屈で腰椎の1番2番に少し椎体のずれがある(+)、頸椎は6番7番で少し動きが良くない、中間位で頭は頸椎7番よりも5㌢㍍前方に倒れている、前屈位頸椎3番4番の前方ギャップが狭い、と診断され、さらに同月16日の頸椎腰椎のMRIの結果、頸椎の2番3番から5番6番の間にかけて椎間板の変性があり、頸椎4番5番の正中から右にかけて神経根の椎間板膨隆がある、脊髄には達していない、腰椎は4番5番で限局して変性がある、イートンテストでは右側2指、3指に抵抗がある、大殿筋の神経に圧痛あり、頸椎4番5番6番に圧痛あり、叩打診にて腹斜筋に疼痛あり(+)、と診断されている。

(イ) 神経学的異常所見としては、「イートンテスト(上肢に行く腕神経叢の牽引試験)で右側2・3指に放散痛出現 腋窩での腕神経叢への刺激(これにより神経の易刺激性、刺激に対する域値の低下を示す。)では右側は肘まで放散痛あり、左側は肩に放散痛あり 両側特に右で神経の興奮性が高い 両側の大後頭神経に圧痛あり 頭頂部手拳叩打にて躯幹伸展反射強陽性 頸部叩打にても躯幹伸展反射強陽性肩甲上腕反射は左陽性で右陰性 腹斜筋叩打で左陽性、右陰性 傍脊柱筋叩打にて左下肢が屈曲 膝蓋腱反射では右に昂進」がみられた。

(ウ) 同年9月6日時点では、神経学的異常所見として、「腰椎部叩打にて躯幹伸展反射強陽性であり、左傍脊柱筋叩打にて腰椎1番ないし5番で首が右に回旋し、左腹斜筋叩打で躯幹伸展反射があり、躯幹が左に屈曲し、疼痛があり、膝蓋腱反射では右は前回同様昂進のままであったが、左は前回の正常から著明に昂進となった」ことがみられた。

(エ) また、原告Xの愁訴では、平成18年8月15日から同年9月6日までの間、頸部痛、頸部~腰部の痛み、左肩~上腕の痛み、腰部痛(特に雨が降るとき腰痛↑)、腰痛の持続、腰と頸が重くてだるい、しびれ、眩暈(10日くらい)、吐き気などがあった。

(オ) そこで、E病院の己川五郎医師は、上記の検査結果及び所見をもとにして、原告Xにつき、入院加療の必要性を認め、平成18年8月15日から同年9月9日までの入院加療の処置をとった。

(カ) その間、己川五郎医師は、原告Xが本件事故に係る警察での事情聴取や獣医としてのやむを得ない仕事のために外出したり、東京での弁護士との法律相談のために外出することについて、その都度許可を与えた。

(キ) その後の通院期間中、原告Xは、主にリハビリと理学療法による治療を受けていた。

 以上によれば、原告Xの平成18年8月15日から同年9月9日までのE病院における入院は、担当医師の裁量による入院必要との診断に基づくものというべきである。原告Xの外出、試験外泊をもって、上記判断を覆すことは相当でない。
 そうすると、原告Xの上記期間中のE病院における入院(26日間)は、本件事故による受傷と相当因果関係に立つと認めるのが相当である。

 したがって、E病院における入院の必要性が肯定される以上、E病院の前のF整形外科(17日間)及びD整形外科(7日間)における原告Xの入院治療についても、それらの病院(g市内)と原告Xの自宅(当時・c市内)との遠距離通院の不便さを考えると、その必要性を否定することはできないというべきである。原告Xの外出、試験外泊をもって、上記判断を覆すことは相当でない。

 ちなみに、原告Xの平成18年8月3日から同月14日までの主な症状等は、右頸~肩痛(+)、腰部痛(+)、右膝痛(+)、腰痛、手の振戦、腰痛、右膝・右肩疼痛(+)、ポリネックはずすと痛み(+)、両肩ハリ感(+)、右膝痛(+)、左腰痛、右膝痛、顎痛(+)、右肩・右膝・腰痛(+)、右肩・膝・腰痛持続、腰部痛(+)、頸部痛(+)、腰痛(+)、右頸部痛(+)、ただし、頸部痛軽度、腰部痛(+)、右頸部~肩にかけて痛み(±)、右股関節痛(+)と違和感、腰部重苦感、朝夕腰痛↑、頸部及び腰部痛などである。

 上記に反する庚山鑑定は、事後的な純粋医学的観点からの見解であり、交通事故訴訟における損害の公平な分担の観点からは採用することができない。

 ところで、交通事故による被害者、ことに本件追突事故のように、無過失である被害者に対しては万全の治療(被害に遭う前の状態に戻すためのできる限りの治療)が行われるべきであるところ、本件事故のように、事故自体が軽微であっても、被害者によっては個体差ゆえに、治癒の早い人もいれば著しく治りが遅い人もいるから、原則的には、加害者はこれを受け入れなければならないというべきである。なぜなら、元の身体に戻してという被害者の言い分は、それが不可能なものの、何人も理解できるからである。とはいえ、被害者の治療が続く限り、それらをすべて加害者が負担すべきであるとの見解には不合理な場合が生じ得るので賛同することができない。

 そこで、交通事故訴訟における損害の公平な分担の観点から、例外的に、被害者の通院治療について、賠償の制約を受けると解すべきである。
 この観点からすると、事故の軽微性に照らし、原告Xの通院治療期間としては、平成19年1月末日まで(本件事故から約6ヶ月余)が本件事故による受傷と相当因果関係に立つと認めるのが相当である。

 これに反する庚山鑑定は、事後的な純粋医学的観点からの見解であり、交通事故訴訟における損害の公平な分担の観点からは採用することができない。
 以上によると、原告Xの通院実日数は、合計90日〔平成18年9月が14日、10月が22日、11月が20日、12月が18日、平成19年1月が16日〕となる。