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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

交通事故重要判例

追突事故での統合失調症発症との因果関係を否認した高裁判例全文紹介2

○「追突事故での統合失調症発症との因果関係を否認した高裁判例全文紹介1」の続きで、以降は裁判所の判断です。

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第三 当裁判所の判断
1 当裁判所は、主文第2項記載の限度で、1審原告の1審被告Y保険会社に対する請求を認容し、1審原告のその余の請求をいずれも棄却するのを相当と判断する。
 その理由は、原判決9頁25行目から16頁14行目までを次のとおり改めるほかは、原判決「事実及び理由」中、第三に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 1審原告の各症状と本件交通事故との間の相当因果関係
(1) 1審原告に残存した神経症状について

ア 証拠(略)によれば、@1審原告は、本件交通事故後、頸部痛、背部痛、吐き気、頭痛等の症状を訴えてB病院救急センターを受診し、同整形外科において頸椎捻挫、腰背部挫傷と診断されたこと、A1審原告は、以後、頸部や背部の疼痛、両上肢の痺れ感の残存等の自覚症状を訴えて各種検査や治療を受けたこと、B1審原告の神経症状について他覚所見は認められなかったものの、頸部から両肩部の重苦感や両上肢の痺れ感の自覚症状は消失しないままとなり、平成19年3月27日に頸椎捻挫、頸部神経根症が症状固定となったと診断されたこと、以上の各事実が認められる。
 したがって、1審原告に残存した上記神経症状は本件交通事故に起因すると認められる。

イ これに対し、1審被告Y保険会社は、上記神経症状は、1審原告の椎間板ヘルニアに起因する可能性が高いと主張するが、MRI検査読影レポート上、1審原告のC5/6椎間板の後方への突出は脊髄を軽度に圧迫しているものの、脊髄内部に信号変化はないことや、1審原告が、本件交通事故以前に上記神経症状と同様の症状を訴えていたことを示す証拠もないことに照らせば、1審原告に残存した神経症状は、本件交通事故により生じたものと考えるのが自然というべきであって、これが椎間板ヘルニアに由来するものであると認めるには足りない。
 また、1審原告は、椎間板ヘルニアは本件交通事故に起因するもので、これが神経症状に影響を与えているから、1審原告の神経症状は他覚所見を伴うものであると主張するが、整形外科の医師の所見は1審原告の椎間板ヘルニアは本件交通事故によるものとは考えにくいというのであるし、1審原告に残存した神経症状が椎間板ヘルニアに由来すると認め難いことは上記のとおりであるから、1審原告の主張は採用し難い。

ウ 1審被告Y保険会社は、本件交通事故による衝撃は軽微なもので、これが1審原告の身体に何らかの影響を及ぼすことは考えられないと主張し、戊田七郎は、鑑定書において、1審原告車と訴外丁山車の損傷の程度(1審原告車においてリアバンパの交換、訴外丁山車において交換なし。)から推測される本件交通事故の有効衝突速度からみて、1審原告に身体的影響が生じたとは考えられないとの意見を述べる。

しかし、同意見が本件交通事故の有効衝突速度を時速2`bと推定する根拠は、各部 品の修理発生率が50%になるバリア換算速度の一覧表に1審原告車及び訴外丁山車の損傷状況を当てはめたものであるが、この一覧表は、確率論からみた蓋然性を述べるものにすぎず、個別の事案において、これと異なる可能性を排斥し得るものとは言い難いことに照らせば、本件交通事故の有効衝突速度が時速2`bを超えていた可能性を合理的に排斥し得るものではなく、そのほか、同鑑定書中には、1審原告車と訴外丁山車が時速2`bを超える有効衝突速度で衝突した可能性を排斥する具体的な根拠は示されていないのであるから、本件交通事故の有効衝突速度に関する同意見の正確性には疑問が残るというほかない。また、同鑑定書には、同鑑定をした戊田七郎が自ら被験者となって行った追突実験において、有効衝突速度時速10`bで追突されてもいかなる身体的影響も受けなかったと記述されているが、追突を予期してされる実験の結果をそのまま採用することはできない。1審被告Y保険会社の主張は採用できない。

(2) 1審原告が発症した統合失調症について
ア 証拠(略)によれば、@1審原告は、本件交通事故直後に実施された実況見分の際に頭痛や吐き気等を覚え始め、その後、動くことができない状態となって、救急車でB病院救急センターに搬送されたこと、A1審原告は、平成18年2月15日から同月22日までの同病院整形外科入院期間中不眠や焦燥感が出現したため、同年3月15日、同病院神経精神科を受診したが、同年4月5日には被害妄想、追跡妄想、幻聴が確認されるに至り、統合失調症と診断されたこと、B以後、1審原告の症状は軽快することなく、平成19年12月26日に症状固定と診断されたこと、以上の各事実が認められるところ、1審原告は、上記統合失調症の発症は本件交通事故に起因すると主張する。

イ この点、証拠(略)によれば、1審原告の主治医である辛川医師は、「非器質性精神障害にかかる所見について」と題する書面において、「交通事故が心理的ストレスとして統合失調症発症に関与した可能性がある」、「事故処理に関わる問題が心理的な影響を与えている可能性がある」との所見を、1審原告代理人からの照会に対する回答書において「交通事故のストレスが統合失調症発症に関与した可能性がある」との所見をそれぞれ示していると認められるところ、前記認定及び証拠(略)によれば、1審原告に被害妄想、追跡妄想、幻聴の症状が確認されたのは、本件交通事故の約1ヶ月半後のことで、その間、1審原告が「事故の相手方からひどい手紙がくる」、「相手ともめている」等と本件交通事故の処理について苦悩していたと認められるのであるから、辛川医師の前記所見には合理性が認められるというべきで、1審原告が統合失調症を発症したことに本件交通事故及びその後の処理が影響した可能性は否定できない。