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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

交通事故重要判例

追突事故での統合失調症発症との因果関係を否認した高裁判例概要紹介

○「追突事故での統合失調症発症との因果関係を認めた判例概要紹介」で「単なる追突事故で頭部外傷が全くない事案で統合失調症発症と事故との因果関係が認められる例は、希有な事例についての画期的判断ですので、以下、取り敢えず、判決要旨と事案の概要を紹介します。なお、残念ながら本判決は、控訴審において事故による傷害と統合失調症発症の因果関係は否認され、平成25年6月現在、最高裁への上告受理申立中です。」と説明していた、残念な仙台高裁判決概要を紹介します。

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仙台高裁平成24年12月25日判決

追突された35歳男子の9級統合失調症は通常発生する範囲内ではないと否認して14級9号認定した

【判決要旨】
@乗用車を運転、交差点を右折中、訴外Y乗用車に追突された35歳男子Xが9級統合失調症の後遺障害を残したとの主張につき、「Xの統合失調症発症が本件交通事故から通常発生する程度、範囲内のものということはできない」と認定した。
AXには統合失調症と診断したB担当医の見解からも、「高度の蓋然性を認めるには足りない」し、本件事故がXに「深刻な精神的苦痛…であったと認め難い」等、 「本件交通事故と相当因果関係が認められるXの負傷は頸椎捻挫及び頸部神経根症にとどまることに照らすと、これがXの開業を不可能とするものであったとは認め難いのであって、その主張は採用できない。以上によれば、本件交通事故とXの統合失調症発症との間に相当因果関係を認めることはできない」として、「Xの神経症状は局部に神経症状を残すものということができるから、自賠法施行令別表第二の第14級9号に該当する後遺障害と認められる」と認定した。

仙台高裁 平成24年12月25日判決(上告中)
事件番号 平成24年(ネ)第251号 損害賠償請求控訴事件
1審 仙台地裁 平成24年3月23日判決
事件番号 平成22年(ワ)第729号 損害賠償請求事件
<出典> 自保ジャーナル・第1892号(平成25年4月25日掲載


【事案の概要】
 35歳男子の原告Xは、平成18年2月15日午後4時頃、仙台市青葉区内の交差点で乗用車を運転右折中、訴外Y運転の乗用車に追突され、頸椎捻挫等から統合失調症を発症し、7級相当の後遺障害を残したとして、甲損保に任意保険金、乙損保に自賠責保険金の被害者請求の訴えを提起した。

 1審裁判所は、追突された35歳男子Xに、統合失調症発症と本件事故との因果関係を認め、9級後遺障害を残し、10年間35%の労働能力喪失による逸失利益等の損害から、6割をXの脆弱性に起因すると素因減額を適用した。

 精神科主治医の見解等から、「本件交通事故に関連した内容であること及びこの幻覚、妄想の内容からすれば本件交通事故とそれに関するその後の係争がXにとって強度のストレスとなったことが認められることからすれば、本件交通事故とXの統合失調症の発症との間にも因果関係が認められる」と認定した。

 Xの症状は、保健福祉手帳障害等級1級、国民年金障害等級1級等から、自賠責9級10号を認めて、35%の「労働能力喪失の期間については、頸部重苦感、両上肢痺れ感の後遺障害の程度及び統合失調症について本件交通事故に関する係争が落着すれば、ストレスから解放されて症状の改善を期待できることを考慮すると、休業期間の終期とした本件交通事故後3ヶ月経過時点である平成18年5月(原告は35歳)から10年間とするのが相当と認められる」と認定した。

 「本件交通事故の軽微な態様に照らせば、Xの統合失調症の発症には、Xの側に素から備わっていた脆弱性(統合失調症の罹患のしやすさ若しくは発病準備性のこと。)がかなり寄与していると認められ、その寄与割合は60%とするのが相当と認められることから、Xの逸失利益を計算するにあたっては、素因減額として60%を控除する」と認定した。

 X、甲・乙損保控訴の2審は、Xの統合失調症を否認、14級認定して判決した。
 Xの統合失調症に関し、診断「医師は、本件交通事故がXの統合失調症発症に影響を及ぼした可能性はあるが、そうではない可能性もあり、的確な判断はできかねるという趣旨の所見を示しているというべきであるから、医師の所見から、Xの統合失調症が本件交通事故に起因するものであることについての高度の蓋然性を認めるには足りないというほかない。

 そして、社会的なトラブルなどのストレス因が統合失調症発症の契機となることは多く見られるが、これらのストレス因は日常生活で一般的に経験されるものであり、多くの者はこれらのストレス因により統合失調症を発症せず、これらのライフイベントは統合失調症という疾患観念に内包されているのであって、これを医学的な原因と考えることはできないとの医学的知見が認められるところ、本件交通事故の態様に照らせば、本件交通事故が被害者に深刻な精神的苦痛を生じさせるものであったとは認め難い」等、「Xの統合失調症発症が本件交通事故から通常発生する程度、範囲内のものということはできない」として、本件交通事故と統合失調症との因果関係を否認した。

 「本件交通事故と相当因果関係が認められるXの負傷は頸椎捻挫及び頸部神経根症にとどまることに照らすと、これがXの開業を不可能とするものであったとは認め難いのであって、その主張は採用できない。

 以上によれば、本件交通事故とXの統合失調症発症との間に相当因果関係を認めることはできない」とし、「Xの神経症状は局部に神経症状を残すものということができるから、自賠法施行令別表第二の第14級9号に該当する後遺障害と認められる」と認定した。

 事故発生時、無職であったXの休業損害を否認、14級後遺障害逸失利益については、「Xの基礎収入は、Xが高専卒の男子で(本件事故当時35歳)、公務員としての稼働歴を有し、開業を予定していたことに照らし、平成18年賃金センサス高専・短大卒35歳〜39歳年収額536万1600円とするのが相当である」として、12.5年間5%の労働能力喪失により認定した。