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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

任意保険会社への直接請求

直接請求に関する昭和54年10月30日東京高裁判決全文紹介2

○「直接請求に関する昭和54年10月30日東京高裁判決全文紹介1」を続けます。



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二 請求原因に対する認否
 請求原因1の事実、並びに2の事実中被控訴人Aが本件加害自動車を所者し、自己のため運行の用に供していたこと、及び被控訴人保険会社が、被控訴人Aとの間に控訴人ら主張の昭和51年約款に基づく保険契約を締結したことを認め、その余を争う。同3の事実は知らない。ただし、控訴人らが、合計で1532万円を上まわらない弁済を受けたことは認める。

三 抗弁(過失相殺)
 Bにも、交通量の多い道路を本件加害者自動車の接近に注意を払わないで横断した過失がある。

四 抗弁に対する認否
 Bが横断中であつた点は認め、その余の事実は否認する。

五 附帯控訴の理由
1 Bは、歩行者として、車道片側幅員7.5メートル、分離帯幅員三メートルの交通量が多い国道で、しかも交通整理の行われていない交差点を横断するにあたつては、右左の車両に対する安全について十分注意を尽くして渡るべきであるのに、これを怠つた過失があり、本件交通事故の一因をなしているところ、他方本件加害自動車の当時の時速は、60キロメートル位であつたとするのが相当であるから、彼此勘案すれば、Bの過失割合は2割を下らないものとして、その損害賠償額を2割減額すべきである。

2 控訴人らの被控訴人保険会社に対する直接請求は、昭和51年約款第1章第6条第1項に基づくものであつて、被控訴人Aが被控訴人保険会社に対して有する保険金請求権を代位行使するのではなく、被控訴人保険会社が履行引受をしたことに対する損害賠償額の支払請求であるところ、同条第2項により、被控訴人保険会社の支払いは、
(1)控訴人らが、被控訴人Aに対する損害賠償請求権を行使しないことを被控訴人保険会社に対して書面で承諾したとき、
(2)被控訴人A及び訴外Nについて、これらの者またはその相続人の破産または生死不明か、これらの者が死亡し、かつその相続人がいないことがあつたとき
という条件にかかつているから、無条件の支払いを命ずる原審判断は誤まりというべく、またその支払履行期は、控訴人らと被控訴人Aとの間で、損害賠償額について、判決が確定したとき、または裁判上の和解もしくは調停が成立したときであるから、原審判断は少なくともその限度で変更されるべきである。

第三 証拠〈省略〉 

理由
一 本件交通事故の発生とBの過失についての当裁判所の事実認定及び法律判断は、原審のそれと同一であるから、原判決7枚目裏1行目から同8枚目裏末行までをここに引用する。

二 Bの損害、(逸失利益を除く。)と控訴人らによる承継、控訴人らの損害、損害の填補についての当裁判所の事実認定及び法律判断は、原審のそれと同一であるから、〈中略〉をここに引用し、Bの逸失利益については、次のとおり認定判断する。

三 Bの逸失利益 1217万円
(一) 算定基礎
 <証拠>によれば、Bは、昭和26年2月7日に生まれた女子で、同42年3月31日中学校を卒業し、単純軽作業的な職種を選んで自宅から働きに出ていたが、同46年10月からは、雇主であつた訴外Cの許に身を寄せて生活するようになり、本件交通事故当時は訴外D株式会社にパートタイムの包装工として雇われ、事故前3か月の平均月額6万6397円の給与を受けていたこと、中学生時代は特殊学級に在席したが、就職後の勤務は真面目で、並の作業能力を示していたこと、収入はほとんど自分で費消し、控訴人らへ送金することはなかつたこと、未婚ではあつたが結婚話しもあり、やがて結婚する意思と機会とを待つていたことが認められ、これに反する証拠はない。

 右に認定した事実に照らすと、Bの逸失利益を算定するにあたつては、本件口頭弁論終結時に接着して公刊された昭和53年賃金構造基本統計調査結果速報(全産業)主要統計表附属統計表第一表中の産業計中卒女子労働者の平均給与を基礎とし、労働可能年数は42年、生活費は収入の5割とし、その現価はライプニッツ方式(年別)によつて換算することが相当であり、その算式は後記のとおりである。

 ところで、控訴人らは、中間利息控除による現価換算について、ホフマン方式を採用すべきであるとし、ライプニツツ方式の非合理性を論難する。しかし、金銭の運用について預金を通常の代表的な事例とし、複利を以て当今の預金金利の常態とすることは、争いえない帰趨であり、他面、物価上昇が、今後40年にもわたつて、戦後の特異事情も含む過去30年間におけると同様の傾向で続くという予測はにはわかに立ち難いものであるといわなければならない。民法は、遅延利息について年利率5パーセントと明定しているけれども、これを、本件の如き現価換算のための中間利息控除の場合に、その利率についてのみならず、単利によるべきであるとする論拠にまでひくのは相当でない。

 それゆえ、ホフマン方式への批判が誤解であるかどうかはともかくとして、ライプニツツ方式を採用したからといつて、裁判の論理性と法的安定性を損ねるといつた論旨にはたやすくくみし得ない。そして、長期にわたる逸失利益の現価換算にあたつては、当然のことながら不確定要素が余りに多く、所詮は証拠によつて確定しうる算定基礎となるべき事実をふまえ、右不確定要素をにらみながら、総合勘案して判断するのほかはなく、中間利息控除の方式も、このような諸事情、諸要素との相関のなかで選択されるべきものである。本件の場合、前記算定基礎となるべき事実その他諸般の事情をすべて考えあわせるときは、中間利息控除の方式としてライプニツツ方式(年別)を採用することには十分の合理性があるものというべきである。

(二) 算式
 (9万6100円×12+24万4200円)×(1-0.5)×17.4232=1217万3589円