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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

任意保険会社への直接請求

加害者請求権消滅時効理由での保険会社への直接請求否認判例全文紹介3

○「加害者請求権消滅時効理由での保険会社への直接請求否認判例全文紹介2」の続きです。


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(被告三井住友の主張)
ア 自賠責保険関係
 被告三井住友は、原告に対し、第1事故について後遺障害等級14級の自賠法の損害賠償額75万円を支払済みである。

イ 任意保険関係
 損害額は否認ないし争う。原告に生じたとされる第1事故と相当因果関係がある損害は、上記の自賠法の損害賠償額及び既払金によりすべて弁済済みである。

(被告共栄の主張)
 被告共栄は、原告に対し、第2事故について後遺障害等級14級の自賠法の損害賠償額75万円を支払済みである。
        
(被告日新の主張)
 損害額は否認ないし争う。原告に生じたとされる第2事故と相当因果関係がある損害は、上記の自賠法の損害賠償額及び既払金によりすぺて弁済済みである。

(5)任意保険の直接請求権を行使する期限が経過したか否か(争点5)
(被告三井住友及び被告日新の主張)
 訴外Aと被告三井住友との任意保険契約及ぴ訴外Bと被告日新との任意保険契約には、一般自動車総合保険普通保険豹款(以下「本件約款」という。)がそれぞれ適月されるところ、本件約款は、損害賠償請求権者の直接請求権(対人賠償)を定めた上、この直接請求権の行使期限に関し、損害賠償請求権者の直接請求権(対人賠償)は、「損害賠償請求権者の被保険者に対する損害賠償請求権が時効によって消滅した場合」に該当する場合には行使できないと定めている。

 この点、原告は、本件各事故の迦害者に対して何らの請求をせず、あえて任意保険会社のみを被告として直接請求権を行使するという独自の考え方に基づく一般的でない訴えを提起し、これを堅持したところ、そのために加害者に対する時効中断効が生じない結果となり、原告の加害者に対する損害賠償請求権は消滅時効が完成したから、被告三井住友及び被告日新は、原告に対し、本件各事故に係る原告め各加害者に対する損害賠償鵠求権について消滅時効をそれぞれ援用する。そうすると、本件は、上記の「損害賠償請求権者の披保険者に対する損害賠償請求権が時効によって消滅した場合」に該当し、本件約款が定める直接請求権の行使期限を経過したことになるから、原告は、被告三井住友及び被告日新に対し、本件約軟に基づく直接鵠求権を行使できないことになる。

(原告の主張)
 被告三井住友及ぴ被告日新は、原告に対し、本件提訴前に本件各事故の治療費等を一部賠償した(既払金)。また、被告三井住友は、答弁書において本件各事故め賠償額を一部認めている上、平成24年10月には、自賠責保険会社として自賠法の損害賠償額を支払ってもいる。これらの行為は、加害者(被保険者)の代理人による債務の承認に当たり、全部につき加害者に対する時効中断効が生じる。したがって、原告の本件各事故の加害者らに対する損害賠償請求権は消滅時効が完成しておらず、本件約款による直接請求権の行使期限は経過していない。

(6)任意保険の直接請求権に関する他の条件充足の有無(争点6)
(原告の主張)
 本件約款は、損害賠償請求権者の直接鵠求権(対人賠償)について、「次の各号のい。ずれかに該当する場合に損害賠償請求権者に対して損害賠償額を支払う」とし(第1章第6条A項)、同項(3)号において「損害賠償請求権者が被保険者に対する損害賠償鵠求権を行使しないことを被保険者に対して書面で承諾した場合」と定めている。被害者の任意保険会社に対する直接請求権については、一般に、被害者が直接請求権を敢得する条件(被保険者が法律上の損害賠償責任を負担し、保険者が被保険者に対して填補責任を負うこと)と、被害者が保険者から支払を受ける条件があると解されるところ、同項(3)号は、この支払を受ける条件に関する定めと考えられるから、「損害賠償鵠求権者が被保険者に対する損害賠償請求権を行使しないことを被保険者に対して書面で承諾」することを条件とする給付の訴えを提起できるというべきである。

 このことは、本件約款の同項(1)号の「被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額について、被保険者と損害賠償請求権者との間で、判決が確定した場合または裁判上の和解もしくは調停が成立した場合」に基づいて、加害者に対する判決確定を停止条件とする給付の訴えが実務上許容されていることと考え方は同じである。また、同項(3)号の書面による承諾は、支払を受けるための停止条件にすぎないから、加害者に対し、任意保険会社の支払と引換えに行えば足りる。したがって、請求の趣旨2項及ぴ4項に係る請求は、いずれも認められるぺきである。

(被告三井住友の主張)
 本件約款は、任意保険会社に対する直接請求が許される場合として「損害賠償請求権者が被保険者に対する損害賠償請求権を行使しないことを被保険者に対して書面で承諾した場合」と定めるところ、これは、約款の制定経緯からみて、被害者が損害賠償の額について同意しているにもかかわらず、被保険者が同意しない湯合に、被保険者の同意を得なくても、その額について被害者から被保険者に対する請求を放棄してもらった上で、保険者が被害者に直接賠償額を支払うことを予定した規定であり、本件のように被害害者(原告)と加害者の保険者(被告三井住友)との間で損害賠償の額について合意がない場合にまで適用されることは、そもそも想定されていない。また、本件約款め上記定めは、理論上も、被害者の加害者(被保険者)に対する損害賠償の額の確定を当然の前提とするから、上記定めに基づく直接請求を行うためには、損害賠償の額の確定を停止条件とする将来給付を求める訴えでなければ不適法というべきである。
 このことを措くとしても、原告は、第1事故の加害者である訴外Aに対し、第1事故についての損害賠償請求権を行使しないことを書面で承諾していないから、上記の定めによる直接請求の要件を充足しておらず、原告の請求は理由がない。