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その他交通事故

高裁判断を覆した平成23年4月26日最高裁判決全文1

○「上告審手続の経験とその備忘録」で、、「最高裁判所における訴訟事件の概況」と言うPDFファイルによると、平成22年の上告事件総数1859件の77.7%が審理期間3ヶ月以内で終局し、98.7%が却下または棄却決定で終局し、同年の上告受理事件総数2247件の73.7%が審理期間3ヶ月以内で終局し、96.4%が上告不受理決定で終局し、最高裁は、殆ど「開かずの門」とも言えますと記載していました。

○最高裁への上告は、通常、高裁判決の見直しを求めて行いますが、この高裁判決が最高裁で覆る割合は、民訴法第312条上告事件で100件の内1.3件程度、第318条上告受理の申立事件で10件の内3.5件程度だけですから、いずれにしても高裁判決を最高裁で覆すのは至難の業です。

○民訴法第312条の上告理由は厳しく限定されており、これに該当する事例は100件の内1.3件程度は納得できますが、この厳しさを緩和するための補完制度である民訴法第318条の上告受理申立事件も100件の内3.5件程度しかないのは、高裁判決が事実上終局判決となっていることを示しています。高裁の裁判官にとっては上告されて覆されることは、相当の汚点となるでしょうから、慎重に吟味して結論を出しているからです。「最高裁判所における訴訟事件の概況」221頁には、「『憲法違反』や『理由不備・食違い』を理由とする上告事件は、実質的には法令違反や原裁判所の事実認定に対する不服を主張するに過ぎないものが殆どであると指摘されている(福田剛久ほか『最高裁判所に対する民事上訴制度の運用』判例タイムズ1250号7頁まで(平成19年))」と記載されています。

○この実質「原裁判所の事実認定に対する不服」でも、最終的には「法令の解釈を誤った違法があり,この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである」として、高裁判断が覆された珍しい例として、平成23年4月26日最高裁判決(判時2117号3頁、判タ1348号92頁、自保ジャーナル1868号1頁)全文を2回に分けて紹介します。

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主文
 原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
 前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
 控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。 
 
理由
 上告代理人甲野太郎の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
1 本件は,上告人の開設するa病院(以下「上告人病院」という。)の精神神経科に通院し,上告人病院のA医師(以下「A医師」という。)の診察を受けた被上告人が,上記診療時において,過去のストーカー被害などの外傷体験を原因とする外傷後ストレス障害(以下「PTSD」という。)に罹患していたにもかかわらず,A医師から誤診に基づきパーソナリティー障害(人格障害)であるとの病名を告知され,また,治療を拒絶されるなどしたことにより,同診療時には発現が抑えられていたPTSDの症状が発現するに至ったと主張して,上告人に対し,診療契約上の債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。

2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)被上告人は,昭和38年生まれの女性で,平成4年から平成15年まで山形県内の町役場に勤務していた間に,昔の友人である男性から長年にわたってストーカーまがいの行為をされ,自宅で首を絞められるなどの被害を受けたほか,平成12年3月には,宴席で勤務先の男性職員から身体に触れられるなどのセクシュアルハラスメントを受けたことがあった(以下,これらの被害を「本件ストーカー等の被害」という。)。

(2)被上告人は,平成15年1月,頭痛を訴えてb市立病院の精神科において診察を受け,以前に本件ストーカー等の被害を受けたこと,ストレスがたまってくると周囲の人に当たったり,泣き叫んだりすることなどを話した。被上告人は,抑鬱神経症と診断され,薬物治療が開始されたが,同年3月,町役場を退職して東京に戻り,看護師としてアルバイト勤務を始めた。

(3)被上告人は,同年11月及び同年12月,頭痛を訴えて上告人病院の精神神経科を受診し,B医師(以下「B医師」という。)の診察を受けた。
 被上告人は,初診時に,山形県の病院で抑鬱神経症であると診断されたこと,10年くらい前にストーカーのようなものがあったことなどを話し,B医師は,被上告人が鬱状態にあると診断し,精神・情動安定剤を処方した。

(4)被上告人は,平成16年1月9日,上告人病院の精神神経科において,B医師から引継ぎを受けたA医師の診察を受けた。
 被上告人は,頭痛を訴えるとともに,平成15年11月の診察時に鬱状態と言われてショックを受けたなどと話したが,A医師は,主訴である頭痛についての精査を優先させることとし,被上告人に対し,器質的な要因の有無を確認するために脳神経外科を受診するよう指示し,同科において必要性が認められた場合にはMRI検査を受けることになる旨を説明した。しかし,被上告人は,これを聞き入れず,早くMRI検査を受けたいとして,強引にA医師にMRIの検査依頼をしてもらった。

(5)上告人病院の脳神経外科の医師は,その後,MRI検査及び診察の結果を踏まえて,被上告人につき筋緊張性頭痛との診断を行い,A医師に対し,その診断内容と同科においても経過観察をする旨を連絡した。