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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

交通事故重要判例

交通事故による脳脊髄液減少症を認めた名古屋高裁判決紹介2

○「交通事故による脳脊髄液減少症を認めた名古屋高裁判決紹介1」を続けます。
今回は、当裁判所の判断の内認定できる事実です。認定した事実概要は、
・平成15年10月11日、被害者が歩行中、加害車両に後ろから衝突され、左腸骨骨折、外傷性硬膜外血腫、胸部打撲等の重傷を負い、36日間入院加療した、
・退院後は通院治療を続け、平成16年2月までに腸骨骨折等の傷害は治癒したが、受傷直後からの起立性頭痛、頚部痛、目眩、気力低下、不眠等の症状が持続した、
・平成18年3月、熱海病院篠永医師から脳脊髄液減少症の疑いと診断され、同年6月同病院に入院してブラッドパッチ療法を受けたところ、頭痛が大きく軽減し、その後2回のブラッドパッチ療法を受け、更に頭痛等が軽減し、アルバイト程度の仕事が出来るようになった、
・平成18年6月のRI脳槽シンチグラフィー及びMRミエログラフィーのいずれにおいても、髄液漏出所見が見られ、造影脳MRI検査において、蓋内静脈拡張所見が見られ、脳脊髄液減少症ガイドライン2007での脳脊髄液減少症診断基準に合致していた
・平成21年12月時点では脳脊髄液減少症の完治を伝えられ、平成22年5月以降会社勤務を再開し、同年12月には頭痛等も完治した

と言うものです。

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第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は、控訴人の請求は、588万4651円及びこれに対する平成15年10月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でこれを認容し、その余を棄却すべきであると判断するが、その理由は、以下のとおりである。

2 認定できる事実
 前記前提事実に加え、証拠(甲1ないし438(ただし、甲374ないし381は欠番。また、枝番のあるものは枝番を含む。)、乙1ないし5、原審における控訴人本人)及び弁論の全趣旨を統合すれば、以下の事実が認められる。
(1)控訴人は、平成15年10月11日午後4時55分ころ、自らの飼犬を連れて道路の歩道線内側を散歩していたところ、被控訴人の運転する被控訴人車に後ろから衝突されて約7m跳ね飛ばされ、頭部と腰部を地面に強く打ち付けるなどして、一時的に意識を失った後、救急車で山田赤十字病院に搬送され、そのまま入院した。

(2)控訴人は、本件事故により、左腸骨骨折、外傷性硬膜外血腫、右眼球打撲傷、右眼窩内側壁骨折、右結膜炎、外傷性頸部症候群、下顎顔面挫傷、左大腿下腿打撲、胸部打撲及び重度ストレス反応の傷害を負い(当事者間に争いがない。)、本件事故当日から同年11月15日までの36日間、山田赤十字病院において、左腸骨骨折、外傷性硬膜外血腫、右眼窩内側壁骨折、外傷性頚部症候群、下顎顔面挫傷、左大腿下腿打撲及び胸部打撲等の傷病名で、入院加療を受け、その後は通院して治療を受けた。なお、控訴人に既往症はなかった。

(3)山田赤十字病院における控訴人の治療経過の詳細は、原判決別紙1ないし3に記載のとおりである。
 控訴人は、傷害の治療として、入院中、安静にして薬物治療を受け、退院後は、頭痛、腰痛及び頚部等のため、同病院整形外科にて薬物治療、理学療法を受け、左腸骨骨折及び右眼窩内側壁骨折は骨癒合となって治癒したほか(甲2ないし4,9,13,15,16,235.枝番のあるものは枝番を含む。以下同様。)。本件事故により生じた複視についても、同病院眼科にて平成15年12月8日から平成16年2月13日まで治療を受け、治癒している(甲5,7)。

 しかし、控訴人は、受傷直後から、激しい頭痛を訴え、特にその頭痛は起立時に増強することを訴えていたところ、山田赤十字病院における治療によっても、このような頭痛が治まることはなく、頚部痛、目眩、耳鳴り、記憶力低下、気力低下、倦怠、不眠等の症状も持続していた。

 また、控訴人は、本件事故に起因する精神的不安から、平成15年12月26日以降、山田赤十字病院精神科・神経科、神経内科を受診するようになり、山崎正医師(以下「山崎医師」という。)により重度ストレス反応と診断され、精神安定剤、睡眠導入剤及び抗うつ剤の処方を受けていたが、治療の効果は上がっていなかった(甲6,8,12,14,17,234)。

(4)そこで、控訴人は、平成16年3月9日から同月23日までの間、三重大学附属病院において通院治療を受け、その際、同病院において、MRI検査がんされたが、異常はないものとされ、また、高次機能障害の検査治療もなされたが、高次機能障害ではなく、頭部外傷後遺症ないし外傷後ストレス症候群と診断された(甲10、11)。

 また、控訴人は、その後の平成16年10月、山田赤十字病院整形外科において、頚部CT及び頸椎のMRIの各検査を受けたが、明かな異常はないものとされた(甲15)。

(5)このような状況下にあって、控訴人は、たまたま人づてに脳脊髄液減少症という病気があることを知り、自らの症状とよく似ていると思われたことから、平成18年2月、山崎医師に依頼して、国際医療福祉大学熱海病院脳神経外科教授篠永正道医師(以下「篠永医師」という。)への紹介状を書いてもらった。

 そして、控訴人は、同年3月1日、熱海病院を受診し、篠永医師から脳脊髄液減少症の疑いがあると診断され、同年6月17日から同月24日までの間、熱海病院に入院してブラッドパッチ治療を受けたところ、従前からの頭痛が初めて大きく軽減した。その後も、控訴人は、熱海病院に11回通院して診察治療を受け(通院実日数13日)、この間、同病院において、平成20年9月3日から同月5日までの間と、平成21年5月27日から同月29日までの間の2回にわたり、同様にブラッドパッチ治療がなされ、また、数回の硬膜外生理食塩水注入(生食パッチ)がなされたところ、ブラッドパッチ治療の度に頭痛が更に軽減し、目眩、耳鳴り等の症状が顕著に改善していき、3回目のブラッドパッチ治療終了後には、アルバイト程度の仕事ができるようになった。
(甲56,83,104,135,158,159,186,209,223,228,229,236,268,322,328ないし330,364,371ないし373,418,424,原審における控訴人本人)。

(6)篠永医師は、控訴人を外傷性脳脊髄液減少症であると診断するに際し、平成18年6月に行ったRI脳槽シンチグラフィー及びMRミエログラフィーのいずれにおいても、髄液漏出所見が見られ、造影脳MRI検査において、蓋内静脈拡張所見が見られたこと、特にRI検査においては、RI注入1時間後に膀胱内RI集積が見られ、3〜6時間後に腰椎部で髄液腔外に、明瞭なRI集積が見られ、髄液漏出像が認められたこと、RI残存率が22.1%と低値であり(通常は30%以上)、クリアランス亢進が見られたことなどを確認し、これらは、脳脊髄液減少症の診断基準として同医師らが所属する脳脊髄液減少症研究会が作成した、脳脊髄液減少症ガイドライン2007(以下「ガイドライン2007」という。)に合致するものと判断した(甲83,268,418,419)。

 また、篠永医師は、平成18年6月に行った初回のブラッドパッチ治療において、髄液貯留のあったC7−TH1硬膜外とL2−3硬膜外に自家血を注入したところ、控訴人の頭痛が軽減し、同年9月13日の通院の際に行ったMRミエログラフィーにおいて、髄液漏出像が消失していることを確認し、髄液漏出所見に改善があったことを確認した(甲104,236,268,418)。

(7)控訴人は、平成21年12月18日、外傷性脳脊髄液減少症が完治した旨を篠永医師から告げられ、その後も、雨天の日などには頭痛や不眠の症状が出ることはあったが、平成22年3月4日には、山崎医師からも終診を告げられ、平成22年5月以降、パナソニック電工株式会社に雇用されて、欠勤なく働いており、現在までに、控訴人の頭痛等の症状は完治している。

 しかし、控訴人は、従前、実家が営む漬物業に従事していたが、本件事故後は、控訴人の味覚と勤労意欲が損なわれたことが大きく影響して、実家の漬物業も廃業となり、夫婦仲も悪くなって、平成19年5月には妻と離婚しており、父母及び2人の子らと共に暮らしている。