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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

休業損害逸失利益

後遺障害認定後減収がない場合の逸失利益に関する判例3

○「後遺障害認定後減収がない場合の逸失利益に関する判例1」を続けます。

平成15年9月19日名古屋地裁判決(交民36巻5号1304頁)
 交通事故被害者(症状固定時51歳・女・養護学校高等部教諭)に併合8級の後遺障害が残った場合に、事故後減収がないとしても、その職場の特殊性などから一定の逸失利益が認められるべきであるとして、症状固定時から定年までの9年間は、8級後遺障害の労働能力喪失率45パーセントの約7割に相当する30パーセントの労働能力喪失があり、さらに60歳以降は、45パーセントの労働能力喪失があると認めるのが相当であるとされました。
 但し、この場合に症状固定時から定年までの9年間は症状固定時の年収、その後65歳に達するまでは同じ職場に再任用されるが、その給与は定年時の7割ぐらいになることを考慮して、症状固定時の年収の7割、また65歳以降67歳までについては学歴別女子全年齢平均賃金を基礎として逸失利益が算定されました。

以下、逸失利益部分に関する判決全文です。

六 逸失利益 3133万5443円 
(1) 前記のとおり、反訴原告の本件事故による傷害は、平成12年11月29日までに症状固定と診断され、残存した後遺障害のうち顔面挫創後の醜状については第12級14号に、頭重感、めまいについては第14級10号に、頸部痛については第14級10号に、視力低下・視野欠損については併合第9級に、歯牙障害については第14級3号と第11級4号に該当することから、結局併合第8級と認定された。後遺障害等級第8級の労働能力喪失率は45パーセントとされる。 

(2)ア 反訴原告は、平成10年1月10日に退院後も同一の職場に復帰して、現在も勤務を続けている。反訴原告の収入は、平成9年分が993万8845円であったところ、復職後の平成10年分は995万9685円、平成11年分は998万3621円、平成12年分は1001万3883円、さらに平成13年分は1015万6892円と事故前と比較して増加しており、本件口頭弁論終結時においては、本件事故による減収は認められない。これによれば、反訴原告に後遺障害等級併合第8級に該当する後遺障害が残ったとしても、それだけで反訴原告に本件事故による逸失利益があると認めるには疑問がある。 

イ しかし、反訴原告の勤務する養護学校は、知的障害、情緒障害、肢体的障害等の障害を持つ生徒が在籍しており、反訴原告は、常に介助を要する生徒のトイレ、着替え、食事等の介助も行う業務に就いており、気を緩めることができないなど、一般の学校に比べて精神的、肉体的な負担の多い職場である。反訴原告は、本件事故により視野が狭くなったことから、横にいる生徒とぶつからないように常に気を遣う、開口障害により大きな声が出せなくなったことから、生徒に呼びかけたり、呼び止めることが難しい、体力が低下したことから体を使う行事への参加ができない、頸部を痛めたことから、後ろを振り返ることが難しい、視力低下のためにパソコンを使う仕事に支障が出る、専門の家庭科の授業では、ミシンの糸通し、縫い目の検査等が拡大鏡を使わないとできなくなるなどの障害が生じ、そのため、頭痛、めまい、吐き気などの症状が出ることがあり、家事労働は、重いものを持つことができないことから、食料品等の買い物は宅配を頼み、手を挙げたり、首を動かすことが困難なため、洗濯物干し等の家事労働を夫や娘に任せることも多くなった。 

ウ 反訴原告は、主治医から勤務の継続が難しいと言われたことはなく、さらに、反訴原告の職場では、60歳の定年後も65歳までは再任用として勤務を続けることが可能であり、その際給与も定年時の7割程度が支給される可能性がある。しかし、反訴原告が現在の職場で勤務を続け、不十分ながら家事労働を行えるのは、反訴原告の労働能力に支障がないからではなく、職場の配慮、同僚や家族の協力に反訴原告自身の努力でこれを補っているものと認められる。さらに、反訴原告は、同一の職場に長期間勤務していることから、転勤を言い渡される可能性も否定できず、転勤となった場合には勤務を継続することに困難が伴うことも考えられるが、現在までは勤務先から今後の勤務の継続の可否についても話を受けたことはない。以上に反訴原告の定年までに期間を併せて考慮すれば、反訴原告は、今後も現在の仕事を継続し、少なくとも平成12年分の収入を維持する蓋然性が高いと認められる。 

エ 以上によれば、本件事故後、反訴原告の収入が減収してないとしても、一定の逸失利益が認められるべきであり、そして、反訴原告の症状固定時51歳から定年となる満60歳までの9年間は、後遺障害等級併合第8級の労働能力喪失率45パーセントの約7割に相当する30パーセントの労働能力喪失があり、さらに、60歳以降は、反訴原告の仕事の内容、年齢、退職の可能性と退職後の再就職の困難さを考慮すれば、45パーセントの労働能力喪失があると認めるのが相当である。 

(3) 反訴原告の基礎となる収入は、症状固定時の51歳から定年の満60歳に達するまでの9年間は、平成12年分の収入である1001万3883円とするのが相当である。そして、反訴原告の勤務先は、定年後も再任用として満65歳に達するまで勤務を継続することができ、その際は、給与は、定年時の7割くらいになることからすれば、反訴原告の60歳から65歳までの5年間については、平成12年分の収入である1001万3883円の約7割に相当する700万円とし、65歳以降については、学歴別全年齢平均賃金又は学歴計年齢別平均賃金を上回るときは、平均賃金を基礎とするのが相当である。反訴原告は、大学卒であるところ、反訴原告の平成12年分の収入は1001万3883円であり、これに対し、平成13年学歴別(大卒)女子全年齢平均賃金は453万0100円であることからすれば、反訴原告の定年時の収入は、最新の学歴別全年齢平均賃金を上回る蓋然性が高いと認められる。これによれば、反訴原告の65歳から67歳までの2年間の基礎となる収入は、前記平均賃金の453万0100円とすべきである。 

(4) これによれば、反訴原告の逸失利益は、 
ア 51歳から60歳までの9年間は、1517万5238円(10,013,883×0.3×5.0514)、 

イ 60歳から65歳までの5年間は、1236万9735円(7,000,000×0.45×3.9269) 

ウ 65歳から67歳までの2年間は、379万0470円(4,530,100×0.45×1.8594) 
 の合計3133万5443円となる。 

(5) なお、反訴原告は、同人の家事労働が制限されたことから、家事労働分の逸失利益が認められるべきであるかのような主張をするが、家事労働の他に就業による収入のある有職主婦の基礎となる収入は、その実収入額を基礎とすべきであり、実収入額に加えて家事労働分を評価するのは相当ではない。