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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

任意保険会社への直接請求

保険会社(共済)への直接請求が激しく争われた例の初判決1

○現在当事務所では30件近い交通事故事件を抱えていますが、平成18年以降は訴訟事件は原則として保険会社(共済)のみを被告とし、加害者本人に請求しません。その理由は「保険会社への直接請求」に詳しく記載しています。これまで30件以上保険会社に対し直接請求の訴えを提起していますが、直接請求自体を激しく争われた例は僅かに1件だけでした。この僅か1件の保険会社(共済)への直接請求が激しく争われた例の初判決を紹介します。平成22年6月8日仙台地方裁判所判決(平成21年(ワ)第1629号損害賠償請求事件)です。別コンテンツで内容を解説します。

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第3 争点に対する判断
1 争点(1)(被告Aへの直接請求の可否)について

(1)被告AがB(※加害者)との間で締結した共済契約の約款(本件約款)では,9条2項柱書きにおいて,「組合は,次の各号のいずれかに該当する場合に,損害賠償請求権者に対して次項に規定する損害賠償額を支払います。」と規定した上,同項3号において,「損害賠償請求権者が被共済者に対する損害賠償請求権を行使しないことを被共済者に対して書面で承諾した場合」と規定している。
 そして,本件では,原告が,被共済者たるBに対する「損害賠償請求権を行使しないこと」を同人に対して「書面で承諾」 したのであるから(甲18),本件約款9条2項3号に基づき,原告が被告Aに対して損害賠償請求権を直接行使できることは明らかである。

(2)これに対し,被告Aは,共済者への直接請求については,本件約款9条2項の他の号では,損害賠償額が確定している場合(1,2号)や共済金額が支払うべき金額であることが明らかである場合(4号)など,実質的に争訟性がないといえるような場合に限って認められているため,同項3号も,損害賠償請求権者と共済者との間で損害賠償責任の額が合意された場合を規定したものである旨主張する。

 しかしながら,本件約款9条2項柱書きは,同項各号の「いずれか」に該当する場合に直接請求ができる旨規定している上,同項3号は「損害賠償請求権者が被共済者に対する損害賠償請求権を行使しないことを被共済者に対して書面で承諾した場合」とのみ規定しているのであって,同項3号の文言上,損害賠償請求権者と共済者との間での損害賠償責任の額の合意が前提となるといった要件は何ら付されていない。むしろ,同項2号では「損害賠償責任の額について,被共済者と損害賠償請求権者との間で,書面による合意が成立した場合」として,被共済者と損害賠償請求権者との合意が明示的に規定されているのであって,仮に,同項3号において,損害賠償請求権者と共済者との合意をも要件とする意図があれば,同項2号と同様,かかる合意を明示的に規定していたはずであるともいい得る。

(3)また,被告Aは,「本件約款9条2項3号が本件のような場合に共済者に対する直接請求を認めているということになれば,弁護士法72条違反となる懸念が大であり,弁護土法72条に配慮して定められている約款の他の規定との整合性を著しく欠くことになる。」(平成22年1月15日付け被告ら準備書面)と主張するが,その主張の趣旨自体,不明瞭であるといわざるを得ない。すなわち,損害賠償請求権者と共済者との間で損害賠償責任の額が合意されていない場合に本件約款9条2項3号に基づく直接請求を認めることが,なにゆえに,同項の他の号と比較して,弁護士法72条違反となる懸念が大きくなり,そのため同項の他の号との整合性を著しく欠くことになるのか,被告Aの主張からは必ずしも判然としない。

(4)さらに,被告Aは,かかる直接請求が認められれば,共済者は被共済者の意思とは関わりなく訴訟を迫行し,その解決を図り得ることになってしまうとか,共済者は被共済者からの協力を得られない場合でも訴訟迫行を強要されることになると主張するが,本件約款9条2項3号の規定は,被害者救済の観点から,まさにこのような解決を図るために設けられたともいい得るのであって,被告Aの上記主張は理由がない。

(5)加えて,被告Aは,かかる直接請求が可能だとすれば,被共済者が自らの過失はないと考えている事案においても,共済者は被共済者の意思とは別に被共済者の過失を認めるような訴訟迫行が可能になるとか,このような訴訟迫行は,事故による共済金額等級の取扱について被共済者と共済者の紛争が誘発されてしまうと主張するが,このような状況は,一般的な交通事故紛争を念頭に置いた場合,にわかに想定し難いのであって,被告Aの主張は理由がない。

(6)そして,被告Aは,かかる直接請求に対しては,共済者は共済約款による免責事由を主張立証することによって直接請求への支払を免れ得ると主張するが,そのような場合,損害賠償請求権者は改めて被共済者に対して請求すれば足りるのであり,損害賠償請求権者の直接請求を否定する根拠にはなり得ない。なお,被告Aは,その場合には共済者が実質的に2回の応訴を余儀なくされるとも主張するが,共済者の手間が増えることをもって本件約款の条項を狭く解釈すべき理由はないのであって,被告Aのかかる主張は失当といわざるを得ない。

(7)なおまた,被告Aは,かかる直接請求訴訟が認められないことは各種の文献(乙6ないし8)及び裁判例(乙9)からも明らかであると主張する。しかし,これらの文献及び裁判例は,その記載からすれば,いずれも本件約款9条2項1,2号に関するものであって,本件のように,本件約款9条2項3号に基づき,「損害賠償請求権者が被共済者に対する損害賠償請求権を行使しないことを被共済者に対して書面で承諾した場合」に直接請求することの可否について論じたものではない。

 さらに,被告Aは,原告提出の文献(甲19)にも被告Aの解釈に沿った記載があると主張するが,この主張自体,明瞭であるとはいい難い。確かに,同文献には被告Aが引用するとおり「被保険者と被害者との間で損害賠償責任の額を確定することが著しく困難または不可能であるので,被害者救済のために,特にこの規定がおかれている。」との記載があるが,そこからなにゆえに,本件約款9条2項3号の解釈として,損害賠償請求権者が,伺号に基づく直接請求を行使するためには,その要件として共済者との間で損害賠償責任の額を合意しておかなければならないことになるのか,必ずしも明らかではない。

 おって,実務上,一部の保険会社ないし共済組合の担当者において,損害賠償請求権者から本件約款9条2項3号と同様の規定に基づいて直接請求を受けた場合に,本件における被告Aの主張と同様の論理によりその直接請求を拒む例があるかもしれないが,かかる実務例のみをもって,直ちに本件約款9条2項3号を被告Aの主張どおりに解釈すべきとまではいい難い。

(8)以上によれば,争点(1)における原告の主張は理由がある。