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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

過失相殺・損益相殺・消滅時効

被害者側の過失−どこまでが被害者側か

○「被害者側の過失−内縁の夫も被害者側」で、「民法第722条2項の被害者とは、被害者側の過失も含み、その被害者側とは、被害者本人と身分上、生活関係上、一体をなすと見られるような関係にある者で、内縁の夫も含む」とされたことを説明しました。

○「被害者本人と身分上、生活関係上、一体をなすと見られるような関係にある者」の典型は戸籍上の夫婦であり、入籍しない内縁夫婦も含むとされましたが、戸籍上は夫婦でも別居中で事実上の離婚状態にある場合は、身分上は一体でも、生活関係上は一体ではありませんので、被害者側には含まれません。

○別居に至らずとも婚姻関係は破綻し、家庭内別居状態にあり、生活費負担も各自行っている夫婦の場合も、生活関係上一体をなすとは言えませんので、被害者側には含まれません。家庭内別居状態にあっても妻は専業主婦で収入が無く、生活費は全て夫が負担している場合は、生活関係は一体と評価される場合もあり、判断は微妙になります。

○恋愛関係にあり近く婚約する予定であった男性の運転する車の助手席に同乗中の女性が交通事故により死亡した事案で、男性は被害者側に当たるかどうか争われ、この段階では身分上、生活関係上一体をなす関係にはなっていないとして運転男性の過失を被害者側の過失とは言えないとした判例があります(最高裁平成9年9月9日判時1618号63頁)。

○この被害者側の過失における被害者側の範囲は、その人が全額損害賠償請求した加害者から過失割合に応じた求償請求されては困る人かどうかが重要な基準になります。典型例としてA運転車両に同乗していたBが、C運転車両との衝突によって200万円の損害が生じ、その衝突事故の過失割合がA50%、C50%の場合、BはAにもCにもそれぞれ200万円全額の損害賠償請求が出来ます。

○BがCに200万円全額請求してCがこれを全額支払うと、Aに対して過失割合50%相当額の100万円を支払えとの求償請求が出来ます。BにとってAがCから100万円請求されては困る関係にあればAは被害者側に入り、請求されてもかまわない関係にあれば被害者側に入らないとも言えます。

○ABが普通の夫婦であればCから200万円取っても夫Aが100万円取られて困るので当初からAの過失割合50%分を控除した100万円だけ請求する方が合理的です。ところが夫婦仲が悪くAが100万円求償されようと全く困らないと言う関係であればAは被害者側には入りません。換言するとBがAには損害を負担させたくない関係であれば被害者側に入り、負担させても良いとの関係であれば被害者側には入らないとも評価できます。

○ところが「被害者側の過失−内縁の夫も被害者側」で紹介した事案は、Bが運転者で内縁の夫Aに対しても損害賠償の訴えを提起し欠席判決が出ている事例であり、ABの間柄について原審裁判例を調査したいと思っております。