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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

交通事故重要判例

被害者の任意保険会社に対する直接請求1

○交通事故被害者が保険会社に対して直接保険金請求をして認められず、損害賠償請求について、加害者に対する判決確定を条件とした将来の給付の訴えとして認められた事例を以下の通り紹介します。
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昭和54年10月30日 東京高裁 昭53(ネ)2214号・昭54(ネ)924号
判例時報949号116頁
控訴人・附帯被控訴人(原告) A
控訴人(原告) B
被控訴人・附帯控訴人(被告) C株式会社
被控訴人(被告) D保険株式会社

1 被控訴人保険会社が、保険者として、被控訴人C株式会社との間に、本件加害自動車につき、同被控訴人を被保険者とし、本件交通事故発生日を保険期間内とする保険金3000万円の昭和51年約款に基づく自家用自動車保険契約を締結したことは、当事者間に争いがない。

2 控訴人らは、被控訴人保険会社に対し、本件保険金の直接請求ができる旨主張するが、未だその論拠は見出し難い。即ち、本件保険契約は、いわゆる任意保険としての責任保険であって、私人間の契約に外ならないところ、被害者にまで保険金請求権を直接認める趣旨は、契約当事者の意思に包含されているとはいえず、また包含されているとみるべきであるとすることもできない。

 昭和51年約款にも、その旨の規定はなく、同約款第1章第6条第1項は、損害賠償額の支払いの直接請求を認めたもので、その法的性質は、保険者が、被保険者即ち加害者に対し、同人が被害者に支払うべき損害賠償金債務の引受けを約したものと解すべきであり、このことは却って、保険金の直接請求を否定したことを含意するといえる。

 被害者にも保険金の直接請求を認めた商法667条は、賃借人その他他人の物の保管者が、その支払うことあるべき損害賠償のため、その物を火災保険に付した場合、その物の所有者について認めた規定であって、本件の如き自動車保険の被害者にまで妥当する一般通則とはなり得ないと解すべきである。また、この種保険金の支払いをめぐる現実の過程において、被害者と保険会社とが、被保険者をこえて直接折衝することが、今や一般的な態様であるとしても、そのことを以て、被害者の保険金直接請求権を認めるべき裏づけとすることも、もとよりできない。

 その他控訴人らの主張を首肯しうる論拠を発見しえないので、結局、控訴人らの前記保険金直接請求の主張は、採るを得ない。

3 次に、控訴人らは、被控訴人保険会社に対し、被保険者である被控訴人C株式会社に対する本件損害賠償債権を保全するため、同被控訴人に代位して、本件保険金の請求をする旨主張する。しかし、交通事故による損害賠償債権も金銭債権にほかならないから、債権者代位権を行使するためには、債務者の資力が債権を弁済するについて十分でないことを要すると解すべきところ(最高裁昭和47年(オ)第1279号、同49年11月29日第3小法廷判決参照)、本件についてこれをみれば、控訴人らの被控訴人C株式会社に対する損害賠償債権は、前認定によって明らかなように、各自482万円であって、延滞損害金を含めても計約1100万円であるのに対し、(証拠略)によれば、被控訴人C株式会社は、山形県酒田市に本店を有し、資本金6950万円、従業員130人を擁する木工関係の会社であって、年間売上は14ないし15億円で、収支のバランスもとれており、経営も順調であることが認められ、これに反する証拠はないから、同被控訴人の資力が前記損害賠償金を弁済するに十分でないとはいえない。
 してみると、爾会の点を判断するまでもなく、控訴人らの保険金代位請求もまた理由がない。

4 しかし、控訴人らは、被控訴人保険会社に対する本訴請求の根拠の一つとして、昭和51年約款第1章第6条第一項を主張するところ、右条項に基づく金員の支払いは、保険者の債務引受による損害賠償金の支払いであって、保険金の支払でないことは前記のとおりであるが、控訴人らの右請求は、保険金としての金員でなければ請求しない趣旨とまでは解されず、損害賠償金の支払いを請求するものとみることもできる。

 そうとすれば、右請求を認める障碍はない。蓋し、これまでに検討してきたところによって、被保険者である被控訴人C株式会社が、控訴人らに対して前記のとおりの損害賠償責任を負担すること、保険者である被控訴人保険会社が、本件保険契約により被控訴人C株式会社に対して同被控訴人が右損害賠償責任を負担することによって被る損害の填補責任を負うこと、及び右損害賠償額が保険金額の範囲内であることが明らかであるからである。

 ただ、昭和51年約款第1章第6条第2項第1号によれば、被控訴人保険会社にとってのその履行期は、控訴人らと被控訴人C株式会社との間で、本件損害賠償債権についての判決が確定したときと解すべきであるから、右請求は、将来の給付を求める訴として、あらかじめこれを請求する必要がなければならない。

 しかし、被控訴人保険会社に対する右損害賠償請求権が、被控訴人C株式会社に対する本判決確定と同時に履行期が到来することは右にみたとおりであるところ、被控訴人らにおいて、いずれもそれぞれの損害賠償義務を争っているから、右請求はあらかじめする必要がある場合にあたると解して妨げない。なお、被控訴人ら主張の昭和51年約款第1章第6条第2項所定の他の二条件なるものは、右判決の確定があるときは、不要であることが同項の文言上明白であるといわなければならない。

 よって、被控訴人保険会社は、控訴人らの被控訴人C株式会社に対する本判決が確定したときは、控訴人ら各自に対し、各302万円及びこれに対する右確定の日の翌日から右完済まで民法所定年5分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
 (林 高野 石井)