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小松亀一法律事務所は、「交通事故」問題に熱心に取り組む法律事務所です。

慰謝料

搭乗者傷害保険と慰謝料

任意保険には搭乗者傷害保険がついています。
交通事故による損害賠償請求事件で、被害者が、搭乗者傷害保険金を受領していた場合、慰謝料にどの程度考慮されるのか争いになる場合があります。
この争いについての被害者側に立った準備書面をご紹介します。
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1 搭乗者傷害保険金の性格
搭乗者傷害保険金は、保険契約者及びその家族、知人等が被保険自動車に搭乗する機会が多いことに鑑み、搭乗者を保護するために給付する保険金であり、搭乗者である被保険者が蒙った損害を填補する性質を有するものではなく、搭乗者傷害保険金を損害額から控除することは出来ないことで判例は確定している(最判H7.1.30)。

2 搭乗者傷害保険金と慰謝料の関係
搭乗者傷害保険金を受領した場合、慰謝料との関係については、前記最高裁判例は、原判決を破棄自判しながら原判決認定慰謝料をそのまま認め、結果として、搭乗者傷害保険金を慰謝料斟酌事由にもしていない。
下級審判例では、斟酌否定説と、斟酌肯定説に別れるが、否定説の方が圧倒的に多く、肯定説においても制限的斟酌説が殆どであり、そのまま慰謝料を減額する判例は殆ど無い。
斟酌肯定説の根拠は、搭乗者傷害保険金は、損害賠償ではない贈与と言うべき見舞金であり、ここに加害者の「誠意」が認められるので慰謝料を多少減額して然るべきというものである。
従って、加害者の誠意の現れによる減額とすれば、減額程度割合は、事故の態様、事故後の被害者に対する態度等総合的に判断すべきであり、一律に決めるべきものではない。何れにしても、慰謝料の一定割合、しかも相当低い割合の減額に止めるべきである。

3 搭乗者傷害保険金受領と慰謝料の減額割合判例について
上記の通り、搭乗者傷害保険金の性格・趣旨からすれば、慰謝料斟酌するとしてもその割合は相当程度低くすべきである。
別紙東京三会交通事故処理委員会編損害賠償の諸問題Ⅱの東京地裁民事27部裁判官を囲む座談会での竹内裁判官レポート(同書214頁)によれば、搭乗者傷害保険金による慰謝料減額について「一概にどの程度の減額が相当であるかを論ずることは困難であり、事案毎に個別的に検討しなければならず」、「搭乗者傷害保険金の50%を超える減額は妥当でない」と述べている。同書218頁に別表として裁判例を数例上げてあるが、最新の平成5年の例では、慰謝料金額が赤い本基準1800万円で、当事者が2000万円請求し、1300万円の搭乗者傷害保険金を受領している例で、裁判所は1500万円と認定し、1300万円の搭乗者傷害保険金の内23%を減額しており、極めて妥当な認定である。

4 本件における減額割合
本件では、おそらく搭乗者傷害保険契約は、被告本人が行ったものではなく、搭乗者傷害保険金支払は、被告自身の誠意とは認められず、又被告の過失の程度、更に事後において原告が、シートベルトを締めてシートを倒して居たなどと全く虚偽の主張をするような不誠実な態度等の誠意のない対応を鑑みれば、搭乗者傷害保険金受領を慰謝料に斟酌すべき理由はないと解すべきである。
百歩譲ってある程度の斟酌を認めるとしても前記レポート平成5年判例を参考にしてせいぜい4分の1程度の100万円程度を減額すれば十二分であることは明白である。