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小松亀一法律事務所は、「男女問題」に熱心に取り組む法律事務所です。

面会交流・監護等

夫の面会拒否に1回100万円の支払を認めた東京家裁決定全文紹介

○子と同居する夫確定決定に従わず、長女である未成年者(12歳)との第1回面会交流に応じなかったため、別居中の妻が、次回の面会につき履行勧告の申立てをしましたが、夫は確定決定に従わなかったため、妻が間接強制の申立をした事案で、夫は妻に対し、速やかに未成年者との面会を認めるべき義務があることは明らか、もはや任意の履行を期待することは困難な状況なので間接強制の方法によって実現を図る必要及び理由があり、夫の資力(給与収入合計2640万円)その他を考慮し、民事執行法172条1項により、間接強制の方法として、未成年者と面会交流を命じ、夫が面会を履行しないときは、妻に対し、不履行1回につき100万円の割合による金員の支払を命じた平成28年10月4日東京家裁決定(判例時報2323号135頁)全文を紹介します。

○後記毎日新聞の「面会拒否に1回100万円 東京家裁が間接強制」とのニュースを見て、どうして100万円もの常識外れな決定が出たのか大変興味深く判例全文公開が待たれていました。面会拒否に対する間接強制金はせいぜい5~10万円程度が普通だったからです。この100万円の決定全文が判例時報平成29年5月1日号に掲載されたので早速読んでみましたが、夫の資力(給与収入合計2640万円=月収220万円)以外に100万円もの高額にした理由についての詳細な説明はありませんでした。

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主   文
1 東京高等裁判所平成28年(ラ)第142号面会交流審判に対する抗告事件(原審:東京家庭裁判所平成26年(家)第10152号面会交流申立事件)の執行力ある決定正本に基づき,債務者は,債権者に対し,別紙のとおり,未成年者と面会交流をさせなければならない。
2 債務者が,本決定の送達日以降,前項の義務を履行しないときは,債務者は,債権者に対し,不履行1回につき100万円の割合による金員を支払え。

理   由
第1 申立ての趣旨等

 主文同旨

第2 当裁判所の判断
1 一件記録によれば次の事実が認められる。
(1)債権者と債務者は,平成12年6月■日に,婚姻し,平成15年■月■,未成年者が誕生した。

(2)債権者と債務者は,平成23年に別居した。

(3)債権者は,平成23年6月3日,■から帰国し,その後,未成年者と同居していた。

(4)債務者は,平成23年7月15日,未成年者を通っていた小学校から連れ帰り,以後,同居し,未成年者は転校した。

(5)債権者は,平成23年9月12日,未成年者を通っていた小学校から連れ出したが,警察が介入し,未成年者は債務者に引き渡された。
 債務者は転居し,未成年者を転校させて,現住所を明らかにしていない。債権者は,同日後,未成年者との面会交流をしていない。

(6)債権者は,平成24年9月21日,未成年者との面会交流を求めて調停の申立てをしたが(当庁平成24年(家イ)第7868号),平成26年10月22日,不成立となり,審判に移行した。この間,債務者は,試行面会及び未成年者の調査に応じず,面会が未成年者の福祉に反するとしてこれを拒み,その理由として,債権者による育児放棄,連れ去りの危険及び未成年者による面会の拒否を主張し,間接強制になじまない旨主張した。

 当庁は,平成27年12月11日,債務者の前記の主張をいずれも退け,審判をしたが,当事者双方が即時抗告したところ,東京高等裁判所は,平成28年4月14日,債務者の前記主張をいずれも退け,別紙の面会を認める旨決定し,同決定が同月18日確定した(以下,同決定を「確定決定」という。)。

(7)債務者が,確定決定に従わず,その第1回面会交流に応じなかったため,債権者は,次回の面会につき履行勧告の申立てをしたが,債務者は確定決定に従わなかったため,債権者は本件申立てをした。

(8)当裁判所が民事執行法172条3項により,債務者の申述を求めたところ,債務者は面会交流を拒絶する旨述べ,その理由としては,債権者によるネグレクト及び未成年者の連れ去り並びに未成年者の拒否を挙げる。また,間接強制を認めるべきでない理由として,未成年者の拒否をいい,その意思を尊重すべき旨及びそれを前提とする監護者の限界を主張する。

(9)債務者の平成27年の年収は給与収入合計2640万円である。

2 債務者が間接強制について述べる点は,未成年者の年齢及びその意思(面会の拒否)並びにそれを前提とする監護親の限界をいうものであるが,年齢については,要は,債務者が確定決定に従わず,面会交流に応じない間にも,未成年者は成長を続けているということであり,乙4記載の未成年者の面会の拒否についても,前記確定決定が当時提出された未成年者の手紙によって意思を認定し得ないとした事情が改められたとは認められず,債務者の主張は採用し難い。
 また,債務者が面会交流をさせられない事情として主張する点は,前記のほか,既に確定決定で退けられたことの繰り返しであり,理由がない。

3 そうすると,債務者は債権者に対し,速やかに未成年者との面会を認めるべき義務があることは明らかであるところ,本件の経緯等にかんがみると,もはや任意の履行を期待することは困難な状況にあることから,間接強制の方法によって実現を図る必要及び理由があり,債務者の資力その他を考慮し,民事執行法172条1項により,間接強制の方法として主文のとおり定めるのが相当である

 東京家庭裁判所家事第3部 裁判官 棚橋哲夫

別紙
(1)月1回 第1日曜日 午前11時から午後4時まで
(2)債務者は、(1)の面会交流開始時間に,■の改札口において,債務者又は債務者の指示を受けた第三者をして債権者に未成年者を引き渡す。 
(3)債権者は,(1)の面会交流終了時間に,■駅の改札口において,債務者又は債務者から事前に通知を受けた債務者の指示する第三者に対し未成年者を引き渡す。
(4)当事者や未成年者の病気や未成年者の学校行事等やむを得ない事情により,上記日程を変更する必要が生じたときは,上記事情が生じた当事者が他方当事者に対し,速やかにその理由と共にその旨を電子メールによって通知し,債権者及び債務者は,未成年者の福祉を考慮して代替日を定める。


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面会拒否に1回100万円 東京家裁が間接強制
毎日新聞2017年1月21日 07時00分(最終更新 1月21日 07時00分)


夫が長女連れ去り、妻の申し立て、東京家裁が決定

 別居している長女との月1回の面会交流が裁判で認められたのに、長女と同居する夫が応じないとして妻が1回の拒否につき100万円を支払うよう求める間接強制を申し立て、東京家裁がこれを請求通り認める決定を出していたことが分かった。面会交流拒否に対するものとしては異例の高額で、妻側の代理人弁護士は「画期的な決定」と評価した。これに対し、夫側は「常識外れだ」として東京高裁に抗告している。

<養育費、合意6割どまり 離婚後トラブル原因に> .

<婚姻の3割が再婚 晩婚化さらに進む> .

 昨年10月4日付の家裁決定などによると、争っているのは離婚訴訟中の日本人の夫と外国籍の妻。夫は長女が7歳だった2011年に家を出た後、小学校から長女を連れ帰って転校させた。引っ越し先を妻に知らせておらず、妻が長女との面会を求めて家裁に審判を申し立てた。

 夫側は妻が長女の転校先を探して押しかけたなどと指摘して「娘が外国に連れ去られる恐れがある」と面会を拒んだものの、家裁は15年12月、月1回5時間面会させるよう決め、東京高裁も支持して確定した。しかし、夫は1回目の面会に応じず、妻が間接強制を申し立てた。

 間接強制の家裁決定で、棚橋哲夫裁判官は「夫は面会を認めない理由として既に退けられた主張を繰り返している。もはや任意で応じることは期待できず、間接強制で実現を図る必要がある」と判断。夫の収入なども参考に1回100万円とした。夫側はその後面会に応じ、妻と長女は5年ぶりに面会した。

 最高裁が13年に面会交流拒否に対する間接強制を認めた後、同様の司法判断が広がったが、額は拒否1回につき5万~10万円程度が多く、金を払ってでも面会を拒む親もいるという。妻側代理人の棚瀬孝雄弁護士は今回の決定について「『子供のために親と会わせるべきだ』と決めたのに、無視されたことに対して裁判所が毅然(きぜん)とした態度を示した。面会が実現し、子供の福祉にかなう判断だ」と述べた。

 ただ、専門家の間には金銭の力で面会を促す手法に懐疑的な声もある。夫側の代理人弁護士は「連れ去りへの恐怖から面会に応じられなかった。金額も常識外れで到底承服できない」としている。【伊藤直孝】

間接強制

 民事執行法に基づく強制執行の一種。判決や家裁審判などの取り決めを守らない当事者に対して、裁判所が「従わなければ金銭の支払いを命じる」との決定を出すことで心理的な圧力をかけ、自発的な履行を促す。

「債務者(夫・同居親)が確定決定に従わず、長女(12歳)との第1回の面会交流に応じず、その後の履行勧告の申立てがあっても確定決定に従わなかったため、債権者(妻・別居親)が申し立てた事案で、間接強制金として不履行1回につき100万円の割合による金員の支払を命じた東京家裁2016(平成28)年10月4日決定」