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不倫問題

メールの遣り取りが不貞行為証拠なるかどうか判断した裁判例紹介4

○「メールの遣り取りが不貞行為証拠なるかどうか判断した裁判例紹介3」の続きで平成24年11月28日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)の主文と請求・事案の概要部分全文を紹介します。

○原告女性は、被告Yと原告の元夫Aが不貞関係にあり、そうでないとしても、被告が原告夫婦の婚姻関係の継続に支障を来すような行為を行い、これにより原告の婚姻関係が破壊されたなどと主張して、被告に対し、不法行為に基づき、慰謝料500万円及び遅延損害金の支払を求めました。

○これに対し、判決は、原告の元夫Aと被告Yのメールからは、AとYとの不貞関係の存在を推認できず、その他の証拠を総合しても、不貞関係を明確に認定することはできないとしました。しかし、Yがメールを送付したことは、原告らの婚姻生活の平穏を害するものとして社会的相当性を欠いた違法な行為であり、不法行為責任を負うとして、500万円の請求に対し金30万円の慰謝料支払を命じました。

○Yは、Aが、原告に対し、離婚に伴う慰謝料として300万円を支払済みで、更にマンション持ち分を分与し、解決金150万円を支払うことで全て解決済みであるとも主張しましたが、判決は、これをもってもYの不法行為責任が全て消滅するという関係にはないとし、慰謝料30万円及び遅延損害金の限度で請求を認容しました。

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主   文
1 被告は,原告に対し,30万円及びこれに対する平成23年5月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを10分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,500万円及びこれに対する平成23年5月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,原告が,被告と原告の元夫が不貞関係にあり,そうでないとしても,被告が原告夫婦の婚姻関係の継続に支障を来すような行為を行い,これにより原告の婚姻関係が破壊されたなどと主張して,被告に対し,不法行為に基づき,慰謝料500万円及び不法行為後の日である平成23年5月9日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

1 前提事実
(1) 原告とA(以下「A」という。)は,平成14年2月2日に婚姻した夫婦であり,婚姻中に長男(平成15年○月生まれ)及び二男(平成18年○月生まれ)をもうけたが,平成24年7月30日調停離婚した。(甲1,乙3)

(2) 原告がAを相手方として申し立てた家事調停事件(平成23年(家イ)第4985号,平成24年(家イ)第1697号)は,平成24年7月30日に調停成立で終了した(この調停を「本件調停」という。)が,同事件の調停調書には,次のような調停条項の記載がある。(乙3)
ア 原告とAは,本日調停離婚する。(1項)

イ Aは,原告に対し,本件離婚に伴う解決金として150万円の支払義務のあることを認め,これを平成24年8月から平成27年1月まで毎月末日限り月額5万円ずつ,[中略]振り込んで支払う。[略](4項)

ウ Aは,原告に対し,本件離婚に伴う財産分与として,調停調書別紙物件目録記載の不動産[原告とAの自宅であった区分所有建物であり,原告とAが持分各2分の1ずつの共有関係にあった。なお,この建物を以下「原告ら自宅」という。]の持分2分の1を分与する。(5項(1))

エ 原告とAは,以下の各金額については,Aから原告に対し支払済みであることを相互に確認する。(6項)
 (1) [略。ただし,原告ら夫婦の子らの養育費1440万円の記載である。]
 (2) 未払の婚姻費用50万円
 (3) 本件離婚に伴う慰謝料300万円

オ 当事者双方は,本件離婚に関し,本調停条項に定めるほか,何らの債権債務がないことを相互に確認する。(10項)

2 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 不貞行為の存否
(原告の主張)

 被告は,平成21年頃から平成23年4月頃まで,Aと交際し,不貞関係を持った。
 被告とAの不貞関係を推認させる事情としては,
①探偵社の調査報告書(甲3,以下「本件報告書」という。)にあるとおり,両者が,腕を組んで歩き,路上で抱き合い,キスをするなどしていたこと,
②探偵社の調査員が原告ら自宅のマンションのエントランスにいる被告を確認しており,被告は家族が家を空けたとき原告ら自宅に招かれていたこと,
③常識的な友人関係を超えている内容のメール(甲4の1ないし18,甲5の1及び2,甲7の1ないし10。これらを総称して「本件メール」という。)のやり取りなどがある。

(被告の主張)
 被告はAと不貞関係にはなかった。被告は,友人に誘われた花火見物でAと知り合い,以後,数人と,たまには二人で居酒屋で飲んだり,電話やメールを交わすことはあったが,常識的な友人関係を超えて親密な交際をしていない。原告は,別の女性とAの不倫関係を疑い,被告を不倫相手と安易に誤解したものと思われる。

 原告の挙げる事情のうち,
①については,被告がかつて脳腫瘍を罹患した後遺症とじんましんの薬の副作用による浮腫のため,すたすたと歩くことが困難であり,Aに腕を取ってもらったことや,ふらついて寄りかかったことが撮影されているのであり,キスをした事実はない。むしろ,探偵社の調査(40日間)によっても,カフェで話した以上の事実は出てきていないのである。
③については,「チュ」,「会いたい」,「ギュウ」などの表現があるが,このうち「チュ」は,挨拶程度のものと考えて記載したものであり,「会いたい」というのもメールでのやり取りを表現したものであり,物理的に会うことを意味したものではない。「ギュウ」はAが手かざしで痛みを和らげる能力を持つというのでAから被告の肩などに手をかざしてもらったことを指している。その他のメールの表現も,被告とAの不貞関係を推認させるものではない。そして,性的親密性を暗示するかのような表現は,主としてAからのメールにしか存在しないところ,これは,Aの一種の性癖にすぎない。

(2) 不貞行為が認定できない場合の不法行為の存否
(原告の主張)

 上記(1)①ないし③の事情は,社会常識に照らし,原告がAとの婚姻関係を継続することを困難とさせるものである。仮にこれらの事情から不貞行為が認定できないとしても,被告は,このような不貞の疑いをもたれるような行為を行っているところ,これらの行為は,健全な社会通念に照らして社会的妥当性の範囲を逸脱する違法なものと評価されるのであり,原告に対する不法行為を構成する。

(被告の主張)
 否認ないし争う。上記原告の主張(1)記載の事情については,上記被告の主張(1)に記載したとおりである。

(3) 損害
(原告の主張)

 原告は,被告の不法行為により,妻が夫に貞操を求める権利を侵害され,また婚姻生活を破壊される等の配偶者としての人格的利益を侵害され,甚大なる精神的苦痛を受けた。これを慰謝するための慰謝料額は500万円を下らない。なお,被告は,本件訴訟で本件メールや,本件報告書を示されても,何ら反省の意思を示しておらず,慰謝料の増額要素として考慮すべきである。

 本件調停で明記された慰謝料300万円は,離婚の有責配偶者であったAの責任に関する総合評価に基づくものである。また,150万円の「解決金」は,慰謝料のみならず,財産分与の対象財産(マンション,貯蓄)の評価額,養育費額,未払婚姻費用等の全てに争いがあり,これらを勘案したものである。よって,これらの金員の支払をもって,被告の慰謝料債務が消滅したという関係にはない。

(被告の主張)
 本件調停により,解決金150万円の支払債務が認められ,慰謝料300万円が支払済みであることが確認された。仮に,被告に不法行為が認められるとしても,適正な慰謝料額が300万円を超えることはないから,原告の被告に対する請求は,もはや認めることができない。