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小松亀一法律事務所は、「男女問題」に熱心に取り組む法律事務所です。

不倫問題

妻から夫不貞行為相手方女性に対する慰謝料請求が棄却された判例紹介1

○妻である原告から、夫の不貞行為の相手方である被告に対し800万円の慰謝料請求をしたところ、
①原告が夫に対しては賠償請求しないと陳述していること、
②夫と被告との関係が自然な情愛によるもので、被告がことさらに原告の権利を侵害しようとしたものではないこと
③夫が原告との別居後適正な婚姻費用を超える金額を原告に毎月支払っていることにより、原告の精神的苦痛は実質的に填補されていること
等から、被告が原告に支払うべき金員は存在しないとして、その請求が棄却された平成15年6月24日東京地裁判決(ウエストロージャパン、新日本法規、LLI/DB判例秘書)全文を2回に分けて紹介します。

○判決理由で、特筆すべきは、
貞操義務(民法752条)は、婚姻の基本であるが、
それは、本来、夫婦間の問題であり、価値観の多様化した今日にあっては、性という優れて私的な事柄については法の介入をできるだけ抑制して、個人の判断、決定に任せるべきであるし、
その貞操義務は婚姻契約によって生じ、一方配偶者の他方配偶者に対する一種の債務不履行の問題であって、貞操請求権は対人的、相対的な性格を有し、
夫婦の一方の他方に対する貞操請求権を侵害するか否かは、他方の自由意思に依存するものであるから、一方配偶者の被侵害利益を第三者による侵害から法によって保護すべきであるというのは、些か筋違い

と断言している点です。

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主  文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、800万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成13年11月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 本件は、訴外C(以下「C」という。)の妻である原告が、被告に対し、被告がCと肉体関係を結び、原告とCとを別居状態に至らせ、自分はCと同棲して、婚姻共同生活の平和又は妻としての権利を害したとして、慰謝料800万円の支払を求めた事案である。

2 前提事実(争いがないか、証拠により容易に認められる事実)
(1) (当事者の関係)

ア 原告とCは、大阪在住(当時)のCの姉の紹介により平成4年8月頃、知り合い、同5年4月12日に婚姻し、両者の間には長男D(平成5年12月7日生)、長女E(平成7年6月13日)、二女F(平成9年10月27日)の3人の子供がいる。
 原告は、関西の短期大学を卒業後、保険会社の大阪支社に勤務し、Cとの婚姻を機会に退職して浦和市(当時)でCと同居するようになり、婚姻後は、一時期、Cの事業を手伝ったほか、家事、育児に専念していた。
 Cは、薬剤師の資格を有し、北里大学薬学部を卒業後、製薬会社に勤務してから、平成5年3月頃に独立して薬局を開業している。

イ 被告は、Cと大学の同級生であり、薬剤師の資格を有し、大学卒業後、大学付属病院の薬局で勤務し、訴外G(以下「G」という。)と昭和62年5月5日に婚姻し、それを機会に退職してからは、平成10年冬にCの兄が経営する薬局にアルバイトとして勤務するまで、家事、育児に専念していた。被告とGとの間には、長女H(昭和63年3月3日生)、二女I(平成5年2月8日生)の2人の子供がいる。

Gは、大学卒業の年に公認会計士試験に合格し、都内の会計事務所に勤務の後、平成8年から独立して都内で会計事務所を開業している。

(2) (本件の経緯)
ア 被告とCは、平成10年3月頃、同窓会の打ち合わせで同席し、その後、連絡を取り合うようになった。そして、被告は、子供から手の放れた同年12月ころから、Cの兄が経営するさいたま市の薬局で働くようになった。

イ 原告は、平成12年1月、Cから突然離婚話を持ち出された。
 Cは、同年6月、自宅を出て、1人で被告肩書地のマンションに住むようになり、同年9月15日には、被告も子供2人を連れて自宅を出て、上記マンションに引っ越した。以後、Cと被告及びその子供2人は同居している。

ウ 原告は、Cと再びやり直すことを求めて話し合いを持とうとするが、Cはそれに応じず、逆に、Cから、平成13年2月、離婚を求める調停を申し立てられた。原告は離婚に同意せず不調となった。なお、被告も、Gに対し、離婚調停の申し立てをしたが、Gが同意せず不調となった。

エ Gは、本件訴訟に先立ち、Cを相手に、Cが被告と肉体関係を持つなどして、Gと被告の円満な夫婦共同生活を害したとする慰藉料800万円の支払を求める訴え(東京地裁平成13年(ワ)第6669号事件)を提起し、500万円の限度で支払を認める一部認容判決を得た。

オ 原告は、本件において、被告に対して賠償請求しているところ、Cに対しては請求しないと陳述している。

3 当事者の主張概要
(1) 原告

ア 被告の不法行為は次のとおりである。
 被告は、Cと平成11年初夏を最初に、それ以降現在まで、度々肉体関係を持ち、外泊、宿泊を伴う旅行をし、平成12年6月にはCに原告との別居を促し、同年9月には同棲をするに至り、現在までそれを持続させている。
 この一連の行為は、原告とCとの婚姻共同生活の平和又は妻としての権利を侵害し続ける反社会的な行為である。

イ 被告の責任は次のとおり重い。
 すなわち、被告は、妻子のいるCに対して、自らの家庭不和や性生活まで話題として持ち出し、Cの関心、同情を惹いて誘惑して付き合うように導き、その後は、夫婦生活の不満という共通の話題で連帯感を盛り上げて関係を深め、肉体関係を持つようになってからも、Cを騙して外泊を重ね、計画的にCを原告と別居させ、自己との同棲を勧め、同棲開始後、それが原告及びGの知るところになっても、被告と不退転の意思を表明し、同棲を続けている。
 本件の不法行為は、上記のとおり、被告の主導によって生じ、現在も、被告の主導で継続しているのだから、被告の責任は重い。

ウ 原告は、被告による一連の不法行為により精神的苦痛を被ったもので、その慰謝料相当額は800万円を下らない。

エ 被告は、不貞の責任は1次的に不貞を働いた配偶者が負うべきであり、特段の事情がない限り、第三者が責任を負う理由はないし、特に、本件では、被告とCの自然な愛情に基づき肉体関係に至ったのだから責任はないと主張する。
 しかし、夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持った第三者は、故意又は過失がある限り、その関係が自然な愛情によって生じたものであっても、他方の配偶者の権利を害するものとして、精神的苦痛を慰藉するため賠償責任を負わねばならない。
 それを否定することは、わが国の社会状況に適合しないし、国民一般の健全な法意識に反する。

(2) 被告

(ア) 原告とCは、婚姻までの交際期間が短く、お互いを理解する前に婚姻に至ったことから、婚姻後、お互いの生活観、価値観、家族観に違いがあることが判明した。そこで、原告とCは、結婚後、次第にお互いに対する愛情を喪失し、夫婦の関係は冷めたものとなった。さらに、原告は、専業主婦にもかかわらず、Cの食事を用意することなく、掃除も怠り、また、夫婦で相互の不満を解消するためにCが話し合おうと持ちかけても応じず、そのうち、性生活もなくなり、原告とCの夫婦生活は、被告とCが肉体関係をもった平成11年夏までに完全に破綻した。

(イ) したがって、被告がCと肉体関係を持ったことで、原告とCの平和な夫婦生活関係が害されたわけではなく、被告は、不法行為責任を負うことはない。

イ 仮に、被告とCが肉体関係をもった時点で、原告とCの夫婦関係が未だ破綻していなかったとしても、被告は、平成10年3月に再会し、その後、しばしば、C及びその兄姉と会ったり連絡を取り合ったりしたことから、前記ア(ア)記載の事実を知るに至り、原告とCの夫婦関係が破綻していると過失なく信じたのであるから、被告には、原告に対する不法行為は成立しない。

ウ 一方の配偶者が第三者と不貞行為を働いた場合、1次的に責任を負うべきは貞操義務のあるその配偶者であり、第三者は、殊更に、その配偶者を誘惑し家庭を壊したような特段の事情がなければ、責任を負うことはない。
 本件は、男女の情愛に基づいて、被告とCが自然に肉体関係まで至ったものであり、特段の事情に基づくものではないから、被告には不法行為が成立しない。