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離婚要件

別居1年半で有責配偶者からの離婚請求が認められた判例全文紹介2

○「別居1年半で有責配偶者からの離婚請求が認められた判例全文紹介1」の続きで、裁判所の判断部分前半です。


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第3 当裁判所の判断
1 婚姻関係の破綻の有無について

(1) 証拠(甲10,乙28,原告X1本人,被告Y1本人のほか,以下の各項に掲記の証拠)及び弁論の全趣旨によれば,次のような事実を認めることができる。
ア 被告Y1は,平成20年11月から平成22年2月までの間,原告X1に秘して,同人名義のゼビオカードを利用し,断続的に,1回1万円から10万円の借入(11回で合計43万円)をした。その内訳は,平成20年11月が合計2回で6万円,平成21年5月が1回で10万円,同年8月が5回で合計15万円,同年9月が1回で7万円,同年10月が1回で2万円,平成22年2月が1回で3万円(各月の返済額はいずれも1万円ずつ)であった(甲1,乙20)。

イ 原告X1は,平成21年11月頃,被告Y1から,月々の生活費が不足する旨を告げられたことから,学資保険を解約して解約返戻金約90万円を都合し,被告Y1に対してこれを交付した。

ウ 原告X1は,平成22年2月頃,被告Y1から,原告X1に秘して借入をしていたことを打ち明けられ,同年3月頃,数社の借入先に対して合計約200万円あまりの負債があることが判明したことから,東京三菱UFJ銀行から236万円を借り入れ(以下「本件借入」という。),この負債を一括返済した。このようなことがあったことから,原告X1は,被告Y1に対し,家計簿を付けてそれを見せるよう要求したが,被告Y1は,これを原告X1に見せることはなく,原告X1としては,被告Y1が本当に家計簿をつけているのかすらわからないままであった。

エ 被告Y1は,平成23年7月30日,原告X1名義の自動車(エルグランド)を運転中,交通事故に遭った(以下「本件交通事故」という。)。被告Y1は,原告X1名義で加入していた保険を利用し,弁護士をつけて加害者側と示談交渉をした結果,自賠責保険金75万円を受領したほか,平成25年3月下旬頃,250万円の示談金を受領した(甲2,乙6ないし8の各1・2)。

オ 被告Y1は,平成23年10月5日から平成25年3月3日までの間,再び原告X1に秘して,同人名義の札幌ドームVISAカードを利用し,平成23年12月を除く毎月,1回につき1万円から27万円(月額で2万円から40万円)の借入(53回で合計356万円)をした。その内訳は,平成23年10月が2回で合計5万円,同年11月が2回で2万円,平成24年1月が3回で合計14万円,同年2月が7回で合計18万円,同年3月が5回で合計22万円,同年4月が2回で合計23万円,同年5月が1回で17万円,同年6月が5回で合計23万円,同年7月が3回で合計11万円,同年8月が2回で合計30万円,同年9月が3回で合計26万円,同年10月が5回で合計33万円,同年11月が2回で合計27万円,同年12月が3回で合計40万円,平成25年1月が3回で合計25万円,同年2月が4回で合計20万円,同年3月が1回で20万円(各月の返済額はいずれも前月の借入額全額)であった(甲11,乙22の1)。

カ 被告Y1は,平成24年3月頃,原告X1が函館に単身赴任する前頃,原告X1から肉体関係を求められた際,「そんなにエッチがしたいなら,風俗店にでも行ったら?」と言ったことがあった。その後,原告X1と被告Y1が肉体関係をもったのは,生理日や排卵日の予測・管理サイト「ルナルナ」(乙5の1・2)を利用していた被告Y1の記憶によっても,平成24年8月頃が最後であり,同年9月頃は,被告Y1が生理であったことから,同年10月頃は,被告Y1が体調不良であったことから,原告X1の要求に応じなかった。こうした中,原告X1は,同年11月頃,被告Y2が酒に酔っているのに乗じて肉体関係に及んだ。

キ 原告X1は,平成24年夏頃,被告Y1から,生活費が足りないなどと申し向けて借入による融通を求められたことから,同年9月から平成25年2月までの間,合計41万9700円を銀行から借入れし,随時,被告Y1が管理する原告X1名義の預金口座に振り込んだ。その内訳は,平成24年9月14日に2万円,同年10月2日に6万9700円,同年12月7日に18万円,平成25年1月22日に2万円,同年2月4日に13万円であった(甲3)。

ク 原告X1は,趣味としていた自動車(中古を含む)を頻繁に買い換えるなどしていた。自動車の保有状況としては,
① かつて原告X1が所有し,通勤用に使っていたパジェロミニを下取りに出して平成22年12月頃にムーブに乗り換え,さらにこれを平成23年5月頃に中古のスカイラインに買い換えた(その後,登録は抹消)。また,
② かつて原告X1が所有し,被告Y1が使用していたエスティマを下取りに出した上でローンを組んで平成23年3月頃に新車のエルグランドに買い換えたが,被告Y1が同車を運転中に本件交通事故に遭ったことから,同年9月頃,これを現状で売却し,その売却代金と物損の賠償金で別のエルグランドを購入した。さらに,
③ 本件交通事故後に代車を貸してくれていた業者からもらったワゴンRを被告Y1名義で所有することとなった。加えて,
④ 原告X1名義で中古のジムニーを購入した。
以上のような経緯で,平成25年3月上旬頃には,夫婦で合わせて4台の自動車を保有するに至った。

ケ 被告Y1は,平成25年3月上旬頃,原告X1が,1つの駐車スペースで4台もの自動車の車庫証明をとり,一部を路上に駐車していること,仕事で付き合いのある業者からもらったというスノーモービルも保有していること,自宅の庭を保管場所として証明を取り,仕事で付き合いのある業者に保管を依頼しているというマリンジェットも保有するに至っていたことについて,限度を超えていると思ったことから,その旨を指摘し,それらの保有や保管場所等を巡って,原告X1と口論になった(以下「本件口論」という。)。こうした中,被告Y1は,区役所に離婚届を取りに行き,原告X1に対して署名押印を求め,原告X1がこれに署名押印をするに至ったものの,被告Y1は,これを直ちに破り捨てた(以下「本件離婚届の一件」という。)。

コ 原告X1と被告Y1は,平成24年8月頃,子らとともに,原告X1運転の自動車で東京方面に旅行に行ったり(乙28添付の写真も参照。以下「本件東京旅行」という。),平成25年5月連休の頃,子らとともに,飛行機で大阪方面に旅行に行ったりしたことがあった(乙9。乙28添付の写真も参照。以下「本件大阪旅行」という。)。

サ 被告Y1は,平成25年7月9日,函館の原告X1のもとを訪れた際,被告Y2の存在や,本件同居の件を聞かされたことから,同月12日,原告X1の実家において,原告X1の両親や兄を交えて,原告X1と,離婚問題や被告Y2との関係についての話合いをした(以下「本件話合い」という。)。その際,原告X1が,平成24年6月頃に被告Y2と知り合った経緯を説明したり,同年11月頃に初めて肉体関係に及んだ際には,ジレンマはあったものの,離婚までは考えていなかったことや,平成25年2月から3月の間,函館から一度自宅に戻ってきた際には,子らがいることから離婚までは考えていなかったことを述べたりしたものの,現在は被告Y1との離婚の意思は固い旨を一貫して述べ続けたのに対し,被告Y1は,原告X1に対し,被告Y2と別れることを求め,また,「私は絶対に待ってるって言ったっしょ。」「私は,パパ,必要なんだって。」などと本件婚姻関係の継続を求めた(乙29)。

シ 原告X1と被告Y1は,平成25年8月頃までは頻繁に電話でのやりとりをしていたが,それ以降,電話でのやりとりはなくなった。同年9月12日には,原告X1が,被告Y1に対し,「何で電話に出ない?」等といった内容のメールを送信したのに対し,被告Y1が「電話に出ないのは運転していたからですが,精神的に限界で,電話で怒鳴られたり,離婚だ言われたり,耐えられない状態でもあります。」等と返信したり,同月14日には,被告Y1が「怒鳴られるの嫌だからメールにして。」というメールを送信したりした。

ス 被告Y1は,平成25年9月6日,自宅の鍵の取替工事を行ったことから,同月16日,原告X1が自宅に戻った際,鍵を開けることができず,チャイムを何度も鳴らしたものの,その様子を怖く感じた被告Y1は鍵を開けず,結局,原告X1は,自宅に入ることができなかった(以下「本件鍵取替後の一件」という。)。被告Y1は,取り替えた鍵の2個のスペアキーはそれぞれ2人の子らに持たせており,スペアキーをもう1個追加注文したものの,結局,同年10月頃に届いたスペアキーを原告X1に送ることはなかった(乙11の1ないし11の3,19)。

セ 原告X1と被告Y1は,平成25年10月頃まではメールでのやりとりをしていたが,その内容は,同年6月頃のもの(お菓子をくれたことについての御礼や,原告X1が壊れたコンタクトレンズの代わりに眼鏡を掛けていたら眼精疲労からくる頭痛がひどくなったこと,自宅のドアの開閉速度を調整するドアクローザーが壊れたこと,被告Y1が急激に痩せてズボンがぶかぶかになったこと,飼い犬のトリミングや予防接種の予定等についてのやりとりもしていた。)とは異なり,ほとんどが口論めいたものとなり,本件鍵取替後の一件に引き続いて第2事件の提訴があった後は,メールの内容がさらに激化していった(乙15の1ないし8,19)。

ソ 被告Y1は,子らにバトン,ピアノ,ファイターズガール(プロ野球チームのチアリーディング)等の習い事をさせたり,通信教育を受けさせたりし,特に,長女については習い事に熱心に取り組ませ,自身も習い事の送迎等に積極的に関与していたが,さらに,学習塾にも通わせるようになり,これらの費用は,月7万円近くにのぼることもあった(甲6ないし8)。

タ 原告X1と被告Y1は,平成26年3月10日,別居期間中の婚姻費用として,原告X1が,被告Y1に対し,同月から双方が同居又は婚姻を解消する月まで,毎月25日限り,25万円を支払う旨の合意書を取り交わした。なお,原告X1の給与は,別居手当が出たり残業代が多くなったりすることから,函館に単身赴任していた頃がピークであり,その頃で税込月額約57万円,手取月額約40万円前後であったが,このうち4万2000円は本件借入の毎月の返済に充てられていた(甲9,乙10の1ないし10の6)。

(2) 前提事実及び以上の認定事実を総合すると,原告X1は,
① 被告Y1が自分に秘して多額の借金をしていたことを知り,その返済を余儀なくされたことがきっかけとなって,被告Y1に対する不信感が芽生えたこと,
② それにもかかわらず,被告Y1が,収支のバランスを熟慮することなく,子らの習い事等に多額の支出をするなど,杜撰な家計管理を続けたことにより,再度,家計に不足が生じて,原告X1に借入による融通を求めるようになったことにより(実際には,自身でも再び原告X1に秘してキャッシングを繰り返すようになっていた。),被告Y1に対する不信感が増大して夫婦関係がぎくしゃくするようになり,口論が増えたこと,
③ さらに,1度目の函館単身赴任直前に,被告Y1から,風俗店へ行ったらどうかなどと言われたことで,被告Y1に対する不満がさらに膨らみ,こうした中で被告Y2と出会い,好意を寄せるようになっていったこと,
④ それでも夫婦関係の修復を考えて本件東京旅行へ行ったものの,かえって不満を口にされてしまい,関係修復が叶わなかったこと,
⑤ その後,夫婦の性生活がなくなり,欲求不満がたまる中,被告Y2と肉体関係に及ぶようになったこと,
⑥ それでも,子らがいること等を考え,被告Y1との離婚を思いとどまっていたが,札幌に戻ってきて被告Y1との同居を再開して間もなく,本件口論に及んで本件離婚届の一件が起こったことから,被告Y1との離婚を考えるに至り,2度目の函館単身赴任を機に,被告Y2との交際を再開させたこと,
⑦ それでもなお,本件大阪旅行に行ったり,被告Y1との間で,普通の夫婦間で交わされるような内容のメール(時に互いの健康状態を気遣うかのような内容のものも含む)のやりとりをしたりしていたこと,
⑧ 被告Y1による函館訪問をきっかけとして,被告Y2のことや本件同居のことを告げ,本件話合いに及んだこと,
⑨ それ以降,メールの内容も口論めいたものが多くなり,やがて被告Y1が電話にも出なくなり,本件鍵取替後の一件ないし第2事件の提訴があった後は,メールの内容がさらに激化し,ついにはメールでのやりとりもなくなった

という経緯を認めることができる。

(3) そうすると,平成24年11月頃に原告X1が被告Y2と肉体関係に及んだ時点では,到底,本件婚姻関係が破綻するに至っていたものということはできないが,平成25年3月頃の本件離婚届の一件を機に,原告X1の側では,主観的には本件婚姻関係の破綻を意識するようになったということができる。しかし,被告Y1は,この離婚届を直ちに原告X1に見えるように破棄しているのであって,被告Y1においては,同人が主張するように,離婚届を突きつけることによって,原告X1の態度を改めさせようとすることに主眼があり,本気で原告X1との離婚を宣言する意図まではなかったことは明らかであり,さらに,原告X1が2度目の函館単身赴任となった後に本件大阪旅行に行った事実やその後に交わされた互いのメールの内容等に照らすと,本件離婚届の一件があった時点においても,客観的には本件婚姻関係が破綻したものと認定することはできない。

 また,平成25年6月下旬頃,原告X1と被告Y2とが本件同居に及んだことは,客観的には大きな事情の変化ということができるが,そのことを被告Y1が知らない以上,被告Y1において,大きな心境の変化が生じるに至っていないことは明らかであるから,やはり,この時点においても,客観的には本件婚姻関係が破綻したものと認定することはできない。

 さらに,平成25年7月9日の被告Y1による函館訪問をきっかけとして,被告Y1が,被告Y2の存在を知り,かつ,本件同居を知るに至って,被告Y1に,原告X1を許せないという感情が芽生えたことは否定できないものの,本件話合いにおいては,原告X1に対し,被告Y2と別れること及び婚姻関係の継続を求めていることからすると,この時点においてもなお,本件婚姻関係が完全に破綻していたものということはできない。

 しかし,その後,互いのメールでのやりとりに口論めいたものが多くなり,電話での会話もなくなった挙げ句,平成25年9月6日に自宅のドアの鍵を取り替えた上,同月16日の本件鍵取替後の一件に及ぶに至って,被告Y1の,原告X1に対する恐怖の情及び嫌悪の情が外形的にも明らかとなったということができる。そうすると,この時点において,主観的にも,客観的にも,本件婚姻関係が完全に破綻するに至ったものというべきである。

 なお,被告Y1は,原告X1の分のスペアキーも注文していたと主張しており,実際に,注文したスペアキーが平成25年10月頃に届いたことを示す証拠を提出するものの,それが原告X1のために用意したスペアキーであるかどうかは不明であるし,そもそも,被告Y1は,原告X1と頻繁にメールのやりとりをしていたと主張していながら,自宅の鍵を取り替える予定である旨を,事前に原告X1に対して告知すらしておらず,また,実際に,原告X1が自宅のチャイムを何度も鳴らしたにもかかわらず,原告X1を自宅に入れようとしなかったのであるから,所論を採用することはできない。