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小松亀一法律事務所は、「男女問題」に熱心に取り組む法律事務所です。

離婚要件

14歳未成熟子有責配偶者離婚認容平成27年7月8日仙台家裁判決全文紹介1

○「13歳未成熟子ある有責配偶者離婚請求認容・棄却2判例のまとめ2」で、13歳の未成熟子が居る典型的な有責配偶者からの離婚請求について認容した第一審平成26年6月27日大阪家裁判決(LLI/DB 判例秘書)と、これを覆して離婚請求を棄却した控訴審平成26年12月5日大阪高裁判決(LLI/DB 判例秘書)の違いのポイントを、私なりに解説していました。

○この解説記事を書いた平成27年6月17日当時は、当事務所で取り扱っていた14歳の未成熟子が居る典型的有責配偶者離婚請求事件が、原告被告双方本人質問を終えて結審し、7月8日の判決待ちの状態でした。そこでこの事件の判決の行方を占うために、一審認容・控訴審棄却の内容を精査する意味がありました。この2つの判決事案詳細を当事務所取扱事案と比較検討した結果、勝訴の確率90%と判断しましたが、平成27年7月8日判決は予想通り勝訴してホッとしました。本件は直ちに控訴されたようですが、お客様の了解を得て、一審判決全文を2回に分けて紹介します。

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主   文
1 原告と被告とを離婚する。
2 原告と被告の間の長女A(平成○○年○月○日生)の親権者を被告と定める。
3 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判

 主文同旨

第2 事案の概要
 本件は,原告が被告に対し,民法770条1項5号により離婚を求めるとともに,当事者間の長女の親権者の指定を求めた事案である。
1 前提事実(掲げた証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 原告と被告は,平成8年○月○日婚姻し,平成12年○月○日,長女A(以下「長女」という。)をもうけた(甲1)。

(2)原告と被告は,平成10年○月○日,仙台市○○区○○町30-90(住居表示は同区○○町○番○号) の土地を購入し,平成11年○月○日,同土地上に戸建ての住宅を建築した(以下,土地建物を合わせて「本件不動産」という。)。本件不動産の所有名義は原告と被告の2分の1ずつの共有であり,また,原告と被告は,本件不動産購入資金又は建築資金の借入れについて連帯債務者となっている。(甲2ないし甲6(枝番含む。))

(3)原告と被告は,遅くとも平成13年8月以降別居しており,被告と長女は,本件不動産に居住している(甲7)。

(4)原告は,平成14年に,被告との離婚を求める訴訟を提起したが(仙台地方裁判所平成14年(タ)第○○○号離婚請求事件),平成15年9月2日,原告の離婚請求を棄却する判決(以下「前件判決」という。)がされ,そのころ確定した(甲7)。

(5)被告は,平成15年10月15日頃,原告及び原告が経営する有限会社B商事を相手取って,被告は当時,ビデオ等販売店「○○○○」(以下「本件ビデオ店」という。)の営業責任者の立場にあり,原告や原告が経営する有限会社B商事が本件ビデオ店の営業を妨害しているなどとして,営業継続妨害禁止の仮処分を申し立てた(仙台地方裁判所平成15年(ヨ)第○○○号)。

 原告,有限会社B商事及び被告は,同年11月26日,上記仮処分申立事件について,有限会社B商事が被告に対して本件ビデオ店の営業一切を譲渡することなどを内容として和解をした上で,平成15年12月1日,大要,以下の内容の合意をした。
① 有限会社B商事及び原告は,本件ビデオ店の営業一切を,平成15年12月1日をもって,被告に譲渡する。
② 被告は,原告に対し,同日から起算して7年6か月間は婚姻費用分担請求をしない。
③ 原告は,本件不動産に関する住宅ローン全額の支払いを責任を持って継続する。(甲9ないし11)。

(6)被告は,平成23年2月7日,原告を相手方として婚姻費用分担調停を申し立て(仙台家庭裁判所平成23年(家イ)第○○○号),原告と被告は,同年8月25日,原告が被告に対して,平成23年5月分以降について月額15万円の婚姻費用を支払うなどの内容で調停を成立させた(甲12,乙15の1)。

2 争点及び当事者の主張
(1) 婚姻関係破綻の有無
(原告の主張)

 原告と被告は,平成13年1月以来別居状態が継続し,その間,原告と被告との聞で直接連絡は一切無く,原告と被告との婚姻関係は破綻している。

(被告の主張)
 被告の父と原告は,原告と被告が別居してからも,平成23年頃までの間,ほぼ毎月1回の頻度で定期的に面談したり電子メールのやりとりをしたりしてきたこと,原告が長女に対して,平成24年12月,長女が欲しがっていたゲーム機を送ってきたことがあったこと,原告は,平成25年,長女が原告に対して東京に遊びに行く費用を出してくれるよう頼んだのに対して送金すると約束したことといった事情がある。

 また,被告は,原告の自覚と反省,真摯な謝罪があることを信じて待っており,それらを受け容れないものではなく,婚姻関係が破綻しているとは認識していない。さらに,原告は,不貞相手との関係を解消して,現在は一人暮らしであると主張しており,原告が被告の下へ戻ることを妨げる要因はなくなっている。
 以上の事情からすれば,本件で婚姻関係の破綻を認定するには慎重でなければならないというべきである。

(2)原告からの離婚請求が信義則に反しないといえるか
(原告の主張)

 以下の事情に照らせば,原告からの離婚請求は信義則に反しない。
ア 原告と被告との別居期間は長期間に及んでいる。
イ 原告と被告との間には未成熟子がいるものの,そのことのみをもって離婚請求が認められないと解するべきではなく,また,原告は,長女に対しては愛情を持っており,被告と離婚した後は,長女と面会するなどして関係を構築する意思を持っている。

ウ 原告は,離婚しても,長女の養育費として,現在支払っている婚姻費用と同額である月額15万円を支払う意向を持っている。また,原告は,離婚が成立すれば,本件不動産の共有持分を被告または長女に移転し,住宅ローンについては引き続き負担する意向を持っている。これらのことからすると,原告と被告が離婚することで,被告や長女が苛酷な状況に置かれることはない。

エ 原告は,被告と別居した以後も,本件不動産の住宅ローン月額20万円以上を負担している。
 被告は,平成13年8月から平成15年12月1日までの間は,被告が実質的に経営を支配していた本件ビデオ店の売上げから十分に生活費を確保していた。また,原告と被告は,前提事実(5)の本件ビデオ店の譲渡により,平成15年12月から平成23年5月までの婚姻費用の代物弁済を合意した。さらに,原告は同月分以後は,調停により定められた婚姻費用月額15万円の支払を継続してきた。

 原告は,以上のように婚姻費用を負担しており,その金額に照らしても,十分な援助を行っている。また,平成15年12月以降の分は,被告においても代理人弁護士に委任した上で納得した金額である。また,原告は,被告の父からの援助要請に応じるなどして,合意した金額以外に1000万円を超える金額を実質的に贈与してきた。

 たしかに,婚姻費用の支払が遅れることはあったものの,その程度からすると,債務不履行と評価するほどのものではない。
 原告は,被告の要請で自動車の名義変更に応じたのであり,自動車を使用したことはなく,自動車税を原告が負担すべきとの主張は失当である。
 原告が本件ビデオ店の取次業者に出荷停止を要請したのは,同店経理担当であった被告が仕入代金を返済しなかったからである。また,原告が本件ビデオ店の売却を決意したのは,被告が売上金を取得する一方で経費に充当せず,赤字が増加する一方であったからであり,看板設置契約を解除したのは,被告が支払うべき使用料を支払わなかったからである。

(被告の主張)
 以下の事情に照らせば,原告の離婚請求は信義則に反する。
ア 原告は不貞行為をした有責配偶者であるところ,前件判決においては,原告の離婚請求について「離婚請求が認められる余地はおよそあり得ない」とされ,原告は極めて重い倫理的責任を負う者なのであるから,その反倫理性が解消されるには絶対的な賞賛に値するだけの有徳な事情が備わっていなければならないというべきである。

イ 原告と被告との間には未成熟子である長女がいる上,長女にとって,父母である原告と被告が離婚することで,特段に資する事情はない。

ウ 被告は,平成9年1月に遭った交通事故の影響により,現在も股関節の可動域制限等が残っており,今後の加齢とともに増悪するおそれがある。
 被告が原告と離婚することは,被告が原告から協力扶助を得られないことになり,十全な療養看護の機会が奪われる。
 前提事実(6)の婚姻費用分担調停成立後における被告と長女の生括は厳しく,生活費の余裕がないときは被告の両親から援助を受けている。また,本件不動産は原告が暖房設備を考案したものであるところ,暖房費用として月額約5万2000円の費用がかかり,真冬でも満足に暖房をつけることができない状態である。

エ 原告は,前件判決以後,以下のとおり,被告と長女を苛酷な状態に置いてきた。原告には,被告や長女の生活を守ろうとする意識や配慮が欠けている。
(ア) 被告は,別居後,本件ビデオ店の売上げから被告や長女の生活費を確保していた。
 原告は,前件判決後,取次業者に対して,本件ビデオ店への出荷停止を要請したり,第三者に営業権を譲渡しようとしたりした。被告は,営業妨害禁止の仮処分を申し立て,前提事実(5)の営業譲渡合意をした。しかし,原告は,被告が業者に依頼して建てた看板の設置契約を解除したり,取引先との継続的商品供給契約を次々に解約していったりと,敗訴の意趣返しをした。

(イ) 原告は,被告に対して,本件ビデオ店の経営が苦しくなった際に援助をすることもなく,被告が平成21年2月に本件ビデオ店を閉店する際にも,商品仕入れのために設立した法人の取引業者に対する支払をした以外に援助をすることはなく,その結果,被告は自己破産するに至った。

(ウ) 原告は,被告が自己破産手続をする際にも,被告の自動車を買い取って中立費用分を出すことはしたものの,被告や長女の生活の窮状に対しては援助をしなかった。

(エ) 原告は,調停で定められた婚姻費用を遅れて入金したことが度々あったため,長女が塾をやめることや,被告や長女が中学校の入学準備に苦労を味わうことがあった。
 また,原告は,平成24年2月,婚姻費用から自動車税相当額5万1000円を控除して送金した。自動車の所有者は原告であり,当時被告は車検費用を捻出できずに自動車を使用できなくなっており,保有の利益を失っていたのであるから,自動車税の負担を被告に転嫁するのは不当であるし,婚姻費用の支払義務と相殺することも違法である。

(オ) 原告は,本件不動産購入時,被告に対して,住宅ローンを原告が支払っていくことを表明していた。また,本件不動産は原告と被告の共有であること,住宅ローンも原告と被告の連帯債務であるところ,被告は平成22年に破産し免責を受け,その後も稼得はないことからすると,原告は住宅ローンを支払うべき立場にある。これらのことからすると,原告が住宅ローンを支払うのは当然のことであり,原告が住宅ローンを支払っていることを過大評価すべきではない。

 前提事実(5)の合意により,被告は90か月分の婚姻費用を請求しないこととなったところ,原告は,本件ビデオ店を600万円で第三者に譲渡しようとしていたのであるから,当該期間については,1か月あたり6万6667円という格安の婚姻費用で済まされることになった。
 また,原告が実質的に贈与したと主張する金員は,すべて本件ビデオ店の運転資金である。