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離婚要件

13歳未成熟子ある有責配偶者離婚請求認容平成26年6月27日大阪家裁判決紹介

○現在、未成熟子のいる有責配偶者の離婚請求事件を抱えていますが、参考判例が見つかりましたので紹介します。平成26年6月27日大阪家裁判決(LLI/DB 判例秘書)です。

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主   文
1 原告と被告とを離婚する。
2 原告と被告間の長女A(平成12年○月○○日生)の親権者を被告と定める。
3 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

主文1項と同旨

第2 事案の概要
 本件は,夫である原告が妻である被告に対し,民法770条1項5号に基づいて離婚を求めた事案である。
1 前提事実(掲記の証拠及び弁論の全趣旨によって認定できる。)
(1) 原告(昭和45年○○月○○日生)と被告(昭和44年○月○○日生)は,平成11年12月11日に婚姻した夫婦であり,両名の間には,長女A(平成12年○月○○日生)が出生した(甲1)。
(2) 原告は,平成14年9月,自宅を出て行き,平成17年9月,離婚調停の申立てをしたが(和歌山家裁平成17年(家イ)第657号),平成18年6月15日,不成立となった(甲3)。
(3) 原告は,平成20年3月,再び離婚調停(和歌山家裁平成20年(家イ)第200号)の申立てをしたが,同年7月10日,不成立となった(甲4)。そこで,原告は離婚訴訟を提起したが(京都家裁平成20年(家ホ)第132号),平成21年7月8日,有責配偶者である原告の請求は信義則に反するとして請求棄却の判決がされた(甲5)。原告は,控訴したが(大阪高裁平成21年(ネ)第1978号),同年11月20日,控訴棄却の判決がされ,そのころ確定した(甲6。以下,この訴訟を「前件訴訟」といい,控訴審判決を「前件高裁判決」という。)。
(4) 他方で,被告は,平成20年に婚姻費用分担の調停の申立てをし(京都家裁平成20年(家イ)第1955号),平成21年1月22日,要旨,平成20年10月以降,原告が婚姻費用分担金として月額10万円を支払う旨の調停が成立した(甲7)。
(5) 原告は,平成24年7月,離婚調停の申立てをしたが(和歌山家裁平成24年(家イ)第441号),同年9月14日に不成立となった(甲2)。

2 当事者の主張の要旨

        (中略)

第3 判断
1 事実関係

 前提事実,証拠(甲12,乙1,乙5,原告本人,被告本人,後掲各書証)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
(1) 原告と被告は,婚姻後もそれぞれ医師として別の病院に勤務していたため,単身生活を送っていたが,被告は平成12年6月に仕事を辞め,専業主婦となって原告と同居し,夫婦は同年7月20日に大阪市内のマンションに転居した。被告は,同年○月○○日,長女を出産し,夫婦は平成13年4月,原告が堺市内の病院に転勤したのに伴って同市内の宿舎に転居した。

(2) 被告は,平成14年4月ころから原告の挙動からその浮気を疑い,同年5月,原告を尾行したが,これを知って立腹した原告から暴行を受け,その後,その旨をその両親に告げたところ,原告は被告の両親から叱責された。原告は,同年9月9日,看護師のD(以下「D」という。)と関係を持つため自宅を出て行き,翌10日,大阪市内のホテルで同女と宿泊し,同年10月末には堺市内にマンションを借りて,平成15年2月にも上記マンションに同女を宿泊させた(乙2の1及び2)。

(3) 原告が東大阪市内の病院に転勤したことに伴い,被告も平成15年7月に上記堺市の宿舎を出ることになったが,原告は,Dとの交際を続けて被告の元に戻らず,被告は長女を連れて和歌山市内の実家に帰り,同年11月から和歌山県内の病院に勤務し始めた。

(4) 原告は,その後,度々被告に離婚の申し入れをしたものの,被告が長女のために離婚はできないなどとして拒否したため,平成17年9月,離婚調停の申立てをしたが,平成18年6月に不成立で終了した。原告は,その後,平成20年3月に2回目の離婚調停の申立てをした後,前件訴訟を提起し,前件高裁判決確定後は東日本大震災の被災地の病院に派遣される等して多忙に過ごしたが,仕事が落ち着いてきたため,平成23年10月ころから再び被告にメール等で離婚の話合いを求めた。しかし,被告が話合いに応じなかったため,平成24年7月には3回目の離婚調停の申立てをし,その後,長女の受験が終わるのを待って,平成25年5月8日,本件訴訟を提起した。なお,原告は,前件訴訟等においても本件訴訟と同様に,被告の態度によって婚姻関係が破綻したなどと主張した。また,原告は,上記の間,Dと別れて大阪市内の賃貸マンションに転居し,平成21年1月に成立した婚姻費用分担調停に従って,平成20年10月分から平成21年1月までの未払分40万円を支払ったほか,同年2月以降月額毎月10万円を被告に送金している。

(5) 他方で,被告は,平成17年ころから長女を連れて京都の原告方の墓参りに行くようになり,平成19年3月,5月,7月及び8月,平成20年1月には長女を連れて京都府城陽市の原告の実家を訪問する等して原告の両親と交流し(乙3の1),上記平成19年5月及び平成20年1月の訪問時には原告も長女と面会した。被告は,平成23年10月以降,原告から送られてきた離婚協議を求める旨のメール等に対し,長女は離婚を望んでおらず,長女も被告も離婚するメリットはない等と回答していたが,同年11月に和歌山市内でクリニックを開業し(甲15),同月末にはその父を病気で亡くし,長女の中学受験も控えていたことから,平成24年6月には離婚の話合いに応じる精神的余裕がないなど手紙に書き,協議を拒否した。

 被告は,原告が3回目の調停申立てをした後の同年8月14日,長女を連れて原告方の墓参りのため京都に向かい,原告の実家近くでその両親に電話を架けて来訪を告げたところ,原告の両親は「原告から離婚問題が解決するまで家に入れるなと言われている」旨述べて被告の訪問を拒否し,原告の母が外に出てきて長女と被告に面会した。長女は,平成25年2月に和歌山市内の中高一貫の私立学校に合格し,被告は,同月10日ころ,予め連絡をすると断られる可能性がある等と考えて事前に連絡をせず,上記合格報告のため長女を連れて原告の実家に赴いたが,このときは原告の両親は被告と長女を家に入れ,長女の従兄弟も交えて親しく交流した(乙3の2)。被告は,同年9月22日にも事前に連絡をせず長女を連れて原告の実家に赴いたが,このときは原告の両親は被告らを家に入れず,原告の母が出て来て京都市内で長女と被告に面会した(甲14の2)。

(6) 長女は同年4月から上記学校に通学し,医師を目指して勉学等に励んでいる。長女は原告と直接会ったのは上記2回だけであるが,同年末ころまでは,年に数回,携帯電話で原告と直接話をしたり,メールやプレゼントを交換したりしていた(乙4の1)。長女は原告を父として慕っている様子であるが,学校で父親の話題が出ると困惑したり,離婚になったとしても再婚しないでほしいと被告に話したりすることもあった。もっとも,被告は,本件訴訟で当事者双方から提出された書面等を長女が目にすることにつき頓着しないばかりか,原告の両親が作成した離婚に賛成する旨の陳述書(甲13,14の1及び2)については,意見を聞きたいなどとしてこれを長女に読ませ,更に平成26年1月ころには長女が原告との連絡に使っていた携帯電話も解約した。これに対し,原告は離婚が成立しない以上,被告への嫌悪感が強いなどとして,自ら長女との交流を確保すべく面会交流調停の申立てをするに至っていない。

2 離婚原因
(1) 上記1の事実経過によれば,原告と被告は,平成14年9月以降別居を継続しており,その間,原告が被告に対し3度の調停申立て及び2度の訴訟提起に及んで離婚を求めたのに対し,被告は離婚を拒否し続け,未だやり直しが可能であるなどと供述している(被告本人)ものであるが,上記別居期間中,夫婦の同居再開に向けた措置が具体的に講じられた形跡は見当たらないことに照らせば,原告と被告との婚姻関係はもはや修復の見込みがなく,完全に破綻しているといわざるを得ず,民法770条1項5号の事由が認められる。

(2) もっとも,上記1(1)ないし(3)に認定したとおり,上記別居は原告が不貞を継続するため家を出たことによるものであるから,上記破綻の責任は専ら原告にあるといえ,原告は有責配偶者に該当する。そこで,次に,原告の離婚請求が,その責任の態様・程度,別居期間の長さ,離婚を認めた場合における被告の精神的,社会的,経済的状態,未成熟の子の監護,教育,福祉の状況等に照らして信義則違反となるか否かについて,検討する。

3 原告の離婚請求の可否
(1) 上記のとおり,原告と被告は平成14年9月以降別居しており,その別居期間は約11年8月に及んでいる。他方で,原告と被告の同居期間はそれぞれ単身生活をしていた婚姻当初から起算しても3年弱に過ぎず,これを上記別居期間が大幅に超えていることは明らかである。また,上記のとおり婚姻関係破綻の原因は専ら原告にあり,その責任も大きいが,その点を考慮しても上記別居期間は相当長期間に及んでいると評価できる。

(2) 次に,離婚請求を認容することにより被告が社会的,経済的,精神的に過酷な状況に置かれることになるか否かについて検討する。
 この点,上記1(3),(5)のとおり,被告は上記別居後の平成15年11月には医師として勤務を再開し,平成23年11月には開業しているもので,婚姻継続の有無に左右されない社会的・経済的な基盤を確立しているほか,原告も平成20年10月分以降に限られるものの,調停に従って毎月10万円の婚姻費用を負担し,離婚成立後も相応の養育費の支払を約し,更に長女の大学進学に際しては相当額の学費も負担する旨申し出ているもので,これらを考慮すれば,本件離婚請求を認容することで被告が社会的,経済的に過酷な状況に置かれるとみることはできない。

 もっとも,離婚によって被告が精神的苦痛を受けることは否定できず,また,原告は平成17年以降,さほど期間を空けずに調停申立てや訴訟提起を繰り返し,その中で破綻の責任が被告にあるかのような主張をしたことから,これらに逐一反論等を余儀なくされた被告の精神的な負担は多大であったと推察される。しかし,これらの点は,結局,慰謝料によって解決が図られるべき事柄といわざるを得ない。そして,原告は500万円の慰謝料支払を申し出ているところ,上記破綻に関する原告の有責性が大きいことやその後の婚姻費用支払額,本件訴訟に至る経緯等を総合すると,上記申出金額はやや低いとの印象も否めないものの,全く考慮に値しないほど低額に過ぎるとみることもできない。
 そうすると,上記の各点に関して離婚請求を妨げる事情があるとは認められない。

(3) そして,原告と被告の間には未成熟子である長女(平成12年○月○○日生)が存在するところ,被告は,離婚が長女に悪影響が及ぼすおそれがあると主張する。
 しかし,原告と長女の父子関係は,原告と被告の婚姻関係の継続や原告の再婚等にかかわらず,構築され維持されるべきものであるし,上記1の事実によれば,長女は2歳前のころから原告と別居を続け,被告が単独でその養育に当たってきたもので,その養育環境は経済面も含め安定していると認められる上,そのような長女の生活実態や養育環境が本件離婚の帰趨によって変更される可能性があるとはいえない。

 また,長女は,現在私立中学の2年生であり,確かに原告が供述するところによればその年齢に比して母親への依存がやや強い傾向が窺われるが,この点は上記長女の生育歴に起因するものと考えられる上,上記1(6)の長女の言動や被告の長女への接し方に照らせば,長女自身既に原告と被告間の不和や紛争を相当程度理解しているものと推測される。そうすると,原告と被告の婚姻関係を形式的に維持しても,そのことが直ちに長女の心情安定に繋がるものとは認め難い。

 むしろ,原告と長女の実質的な父子交流の円滑を図ることが長女の心情安定に資するものと思料されるところ,上記経緯に照らせば,長女と原告の直接の面会は平成20年1月以降実現されていないことに加え,本件訴訟の前後を通じて当事者の紛争が激化した結果,原告の両親もこれに巻き込まれる形となって,長女が祖父母と屈託なく交流することも困難となっている上,被告自身も原告と長女間の直接のやりとりを阻む状況に至っている。

 そうすると,離婚問題が解決しない以上,自ら面会交流調停等の申立てをしないとの原告の態度は,もとより不適切であるとの非難を免れないものの,このまま原告と被告の離婚を認めないことは両名間の激しい紛争状態の中に長女を置くことになって,かえって父子間の実質的な交流実現を阻み,長女の福祉に反する結果を招来することとなる。

(4) 以上に検討したところを総合すれば,被告が離婚を強く拒否していることや未成熟子である長女の存在は原告の離婚請求を妨げるものとはいえず,本件離婚請求が信義則に照らして許されないということはできない。

4 親権者
 上記1の事実によれば,長女の親権者は被告と定めるのが相当である。

5 以上の次第で,原告の離婚請求は理由があるから,長女の親権者を被告と定めて認容することとし,主文のとおり判決する。

 大阪家庭裁判所家事第4部 裁判官 久保井恵子