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小松亀一法律事務所は、「男女問題」に熱心に取り組む法律事務所です。

離婚要件

別居2年未成熟子2名の有責配偶者離婚を認めた東京高裁判決全文紹介1

○別居期間2年の有責配偶者配偶者の離婚請求を認めた平成26年6月12日東京高裁判決(判時2237号47頁)全文を紹介します。
 6歳の長男と4歳の長女を抱えた有責配偶者に該当するフランス人女性の妻が日本人男性の夫に離婚請求をして、一審平成25年12月24日横浜家裁判決(判時2237号55頁参考収録)の有責配偶者として請求棄却としたものを取り消し、2年の別居期間で婚姻破綻を認めて離婚を認容しました。未成熟子は離婚請求をする有責配偶者が親権者として監護を認められた珍しいケースですが、有責配偶者離婚判決として参考になります。XのYに対する財産分与請求は高裁段階で取り下げています。

事案概要は次の通りです。
・控訴人X(フランス人女性)と被控訴人Y(日本人男性)は平成17年6月日本方式で結婚
・平成19年長男A、平成21年長女B誕生
・平成22年6月Xは弁護士にYとの離婚相談
・平成23年5月、XはA・Bを連れて東日本大震災被災を避けるためフランス実家一時帰国
・同年7月頃、YはXのクレジットカードを使用不能にして、「怒鳴られたくないなら、この家を出て行け。」などと言うなど関係悪化
・同年10~12月Xはフランス人男性Cと交際し同年11月Yとの離婚を決意
・平成24年3月XはDと交際、同年5月A・Bを連れて別居し、同年6月横浜家裁に離婚調停申立
・平成24年12月横浜家裁はXの離婚請求を有責配偶者として棄却、X控訴
・平成25年1月横浜家家裁で、YがXに対し養育費を含む婚姻費用として、毎月10万円を支払うとの調停が成立
・平成26年6月東京高裁は一審判決を取り消し、Xの離婚請求認容判決、Y上告受理申立


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主  文
1 原判決を取り消す。
2 控訴人と被控訴人とを離婚する。
3 控訴人と被控訴人との間の長男A(平成19年○月○日生)及び長女B(平成21年○月○日生)の親権者をいずれも控訴人と定める。
4 被控訴人は、控訴人に対し、本判決確定の日の翌日から前項の未成年者らがそれぞれ成年に達する日の属する月まで、毎月末日限り、1人当たり月額6万円を支払え。
5 訴訟費用は、第一・第二審を通じてこれを3分し、その1を控訴人の、その余を被控訴人の、それぞれ負担とする。

事実及び理由

第一 当事者の求めた裁判

一 控訴人
 主文第1項ないし第4項と同旨
二 被控訴人
 本件控訴を棄却する。

第二 事案の概要
一 本件は、平成17年6月12日に我が国の方式により婚姻し、平成19年○月○日に長男A、平成21年○月○日に長女B(以下「長男」、「長女」といい、併せて「未成年者ら」という。)が誕生した夫婦において、平成24年5月30日にフランス国籍の妻である控訴人が未成年者らを連れて家を出て別居した後、日本国籍の夫である被控訴人に対し、婚姻を継続し難い重大な事由があるとして、離婚を求めるとともに、その附帯処分として、未成年者らの親権者を控訴人に指定すること、養育費として未成年者ら一人当たり月額6万円を支払うこと及び財産分与として300万円を支払うことを申し立てている事案である。

 原審は、控訴人はフランス国籍を有する者であるが、被控訴人は日本国籍を有し、日本に常居所を有する者と認められるので、法の適用に関する通則法27条ただし書により、本件の準拠法は日本法となるとした上で、控訴人と被控訴人との別居期間は1年半余りにすぎず、控訴人がその行動を改めさえすれば夫婦関係は修復される可能性があるから、婚姻関係は未だ破綻していないものと認められるとし、仮に、現段階において控訴人と被控訴人の婚姻関係が破綻しているとしても、その原因は控訴人が他の男性との生活を望んだためで、控訴人は有責配偶者であるから、控訴人からの離婚請求は信義誠実の原則に反し許されないとして、控訴人の請求を棄却した。
 そこで、これを不服とする控訴人が本件控訴を提起したものである(なお、控訴人は、当審において財産分与の申立てを取り下げた。)。

二 前提となる事実、当事者双方の主張及び争点は、次のとおり原判決を補正するほか、原判決の「事実及び理由」第二の一ないし三に摘示されたとおりであるから、これを引用する(ただし、「原告」を「控訴人」と、「被告」を「被控訴人」と、それぞれ読み替える。)。
(原判決の補正)
(1) 原判決二頁18行目末尾に改行の上、次のとおり加える。
 「 仮にそうでないとしても、控訴人は、平成22年5月頃、離婚した場合の在留資格についてフランス領事や弁護士に相談し、同年9月には被控訴人に対して仕事を始めたいと伝え、経済的に自立する準備を始めた。これに対し、被控訴人は、平成23年7月20日頃、控訴人のクレジットカードを再び取り上げ、控訴人に対し、「家から出て行け」と言ったりした。控訴人は、同年8月には日本での永住者ビザを取得し、離婚しても日本で暮らせるようにしたが、被控訴人は、同年9月21日には控訴人に対して「生活費を半分払え」と要求してきたので、控訴人は、少ない収入の中から被控訴人に対して月額8万円の生活費を支払うようになった。このように、控訴人と被控訴人との婚姻関係は、別居前の平成23年9月21日には既に破綻していた。」

(2) 原判決二頁23行目の全文を次のとおり改める。
 「(5) 未成年者らは、控訴人と被控訴人が別居した平成24年5月30日以降も控訴人と同居して、現在に至るまで安定した生活を送っており、この間、控訴人は明確な教育方針を持って未成年者らを養育している。これに対し、被控訴人は、未成年者らを可愛がってはいるが、これまでも未成年者らの日常生活において細かな面倒を見たことはなく、未成年者らの養育に協力してくれるような親族もいない。したがって、未成年者らの親権者としては、控訴人が適格である。
 (6) 控訴人は、別居後、フランス語教師、私立高校の教職等の複数の仕事を掛け持ちして働いており、現在の年収は約100万円であり、被控訴人から未成年者らの養育費として毎月10万円の送金を受けている。控訴人及び未成年者らの支出は、家賃が9万円、長男の幼稚園代が4万円、習い事等が一ないし2万円、食費が約4万円であり、貯蓄をする余裕はない。一方、被控訴人は800万円位の年収があるから、未成年者らの養育費の額は、一人当たり月額6万円とすべきである。」

(3) 原判決二頁25行目の「平成21年8月頃」の次に「又は平成23年9月21日頃」を加える。

(4) 原判決三頁四行目冒頭から同頁五行目末尾までを次のとおり改める。
 「(1) 控訴人と被控訴人の婚姻関係は破綻しているか。
 (2) 有
責配偶者である控訴人からの離婚請求は信義則に反するか。」

第三 当裁判所の判断
一 当裁判所は、原判決と異なり、控訴人と被控訴人の婚姻関係は破綻しており、しかも、フランス国籍の妻である控訴人から安定的な収入のある夫である被控訴人に対する離婚請求は信義則に反するものではないから、これを認容すべきものと判断する。その理由は、次のとおりである。

二 認定事実
 証拠〈省略〉によれば、次の事実が認められる。
(1) 控訴人(1977年(昭和52年)○月○日生)と被控訴人(昭和47年○月○日生)は、平成17年6月12日、日本において、日本の方式により婚姻し、平成19年○月○日に長男が、平成21年○月○日に長女が生まれた。

(2) 平成21年9月には控訴人の両親が来日して、控訴人と被控訴人の自宅で約2か月間生活し、平成21年12月には、控訴人と被控訴人が二人の子を連れてフランスの控訴人の実家へ遊びに行くなどしていた。

(3) 控訴人と被控訴人は、平成22年3月頃、家族四人で住むための新築の家を購入しようと鎌倉に物件を見に行ったが、購入はしなかった。

(4) 控訴人は、同年5月から、フランス大使館とメールで連絡をとるようになり、同大使館宛のメールで、被控訴人が電話とインターネットを止め、家の鍵を交換して、控訴人に対して離婚しようと言い、控訴人を日本から追い出してやると脅されている、もし離婚されたら、日本人の子供の親として日本のビザをもらえるのかという内容の相談をもちかけた。これに対し、同大使館の担当者は、仮に被控訴人が本当に離婚しようというのであれば、控訴人は弁護士に相談した方がよいと返答した。

(5) 控訴人は、同月20日、フランス大使館を通じて知ったa法律事務所のE弁護士に対して、メールで、2、3日前に被控訴人から、控訴人と離婚したいので、区役所から離婚の届出用紙をとってきたい、決心がつくまでは家に保管し、サインするかどうかは考えたいなどと言われたこと、被控訴人が離婚したい理由として上げているのは、控訴人が被控訴人の言うことを聞かず、いつも被控訴人を怒らせ、愛情があるようには見えず、いつも文句を言っていることなどであり、控訴人が、ゴールデンウィークの間にほんの2、3時間、被控訴人に未成年者らの面倒を見るように頼まずに買い物に出かけたということで、被控訴人は、控訴人を殴ってやると脅し、控訴人の携帯電話をつながらないようにし、自宅の鍵を取り替え、電話やインターネットを使えないようにした上、被控訴人の銀行口座を引落し先とする控訴人のクレジットカードをキャンセルしたこと、控訴人は、被控訴人がばかげた理由で控訴人を怒鳴り付けるようなことがなければ、未成年者らを一緒に育てたいと思っていることなどを連絡した上、同年6月1日には、同じくE弁護士に対して、離婚した場合の在留資格について相談した。

(6) 控訴人は、同年9月、被控訴人に対して働きに出たいと言ったが、被控訴人に反対された。

(7) 被控訴人は、平成23年5月、同年3月11日の東日本大震災による被害を恐れてフランスに避難していた控訴人と未成年者らに会うため、フランスに行った。控訴人と被控訴人は、未成年者らを控訴人の両親に預けて、一緒にスペインのバルセロナに旅行に行くなどした。

(8) その後、被控訴人は、同年7月頃には控訴人のクレジットカードを使用できないようにし、控訴人に対して、「怒鳴られたくないなら、この家を出て行け。」などと言った。

(9) 被控訴人は、同年9月、控訴人に対して生活費の半分を負担するよう求め、控訴人は、フランス大使館宛に、領事に会いたいとのメールを送信するなどした。

(10) 控訴人は、同年10月頃から同年12月頃までの間、C(以下「C」という。)と交際していたが、同年11月頃には被控訴人と離婚することを決心した。

(11) 一方、被控訴人は、同月24日、フランス大使館において、控訴人が浮気をして離婚したがっていること、未成年者らの親権をとりたがっていることなどを説明し、同日、フランス領事にメールで、フランス人の夫としてのフランスのビザがもらえたら、離婚してからどれくらいの期間、そのビザが有効なのかなどを聞いたりした上、控訴人が未成年者らを国外に連れ出すことを防ぐため、パスポートを再発行しないように要請した。なお、被控訴人は、控訴人が未成年者らを国外に連れ出すことをおそれるあまり、控訴人のパスポートを取り上げていた。

(12) 控訴人は、平成24年3月頃にはD(以下「D」という。)と交際するようになり、同年5月上旬頃、被控訴人に対して離婚してほしいと告げた。被控訴人は、控訴人が他の男性と交際するために離婚を求めているのではないかと疑い、控訴人に対して同年8月頃まで考えさせてほしいと答えた。

(13) 控訴人は、同年5月30日に未成年者らを連れて自宅を出て、被控訴人と別居し、同年6月には横浜家庭裁判所に被控訴人との離婚調停を申し立てた。

(14) 被控訴人は、控訴人には自宅に一切立ち入って欲しくなかったため、同月7日には、控訴人に対してメールで家の鍵を返すよう要求した上、控訴人が残した物は全て廃棄すると通告した。また、被控訴人は、同年7月頃、不倫の証拠を押さえておいた方がよいとの弁護士のアドバイスに従って、控訴人とその相手の写真を撮影するなどした。

(15) 被控訴人は、同年9月頃、控訴人がDの家から出てくるのを待ち構え、暴力沙汰となったため、警察官が臨場する騒ぎとなった。

(16) 控訴人と被控訴人は、同年12月20日、フランス領事と会って、夫婦間の問題について話し合ったが、結論は出なかった。

(17) 平成25年1月8日、横浜家庭裁判所において、被控訴人が控訴人に対して、未成年者らの養育費を含む婚姻費用として、毎月10万円を支払うとの調停が成立した。

三 控訴人の離婚請求について
(1) 準拠法

 控訴人と被控訴人とは、日本において、日本の方式により婚姻したものであり、控訴人はフランス国籍を有する者であるが、被控訴人は日本国籍を有し、日本に常居所を有する者と認められるので、法の適用に関する通則法27条ただし書により、本件の準拠法は日本法となる。

(2) 破綻の有無
 そこで本件において、控訴人と被控訴人との婚姻関係が破綻しているか否かについて検討する。
ア 上記認定の諸事実によれば、控訴人と被控訴人との夫婦は、もともとは被控訴人が、控訴人が被控訴人の言うことを聞かないとして離婚を切り出したものであり、しかも、控訴人に被控訴人の言うことを聞かせようとして、被控訴人が控訴人の携帯電話やメールを使えないようにしたり、クレジットカードをキャンセルしたりしたために、控訴人は被控訴人に対する信頼を失い、夫婦としての亀裂が決定的なものになったと考えられる。そして、その後、控訴人は、フランス人男性のCと交際するようになって、平成23年11月頃には被控訴人との離婚を決心し、平成24年5月上旬頃には被控訴人に対して離婚してほしいと告げ、被控訴人は同年8月頃まで考えさせてほしいと答えたものの、控訴人が同年5月30日には未成年者らを連れて自宅を出て被控訴人と別居し、同年6月には横浜家庭裁判所に離婚調停を申し立てたことから、被控訴人も、控訴人に対して自宅に立ち入らないよう申し渡し、控訴人に対して家の鍵を返すよう要求した上、控訴人が残した物を全て廃棄すると通告しただけではなく、同年9月頃には、控訴人がDの家から出てくるのを待ち構え、暴力沙汰となって、警察官が臨場する騒ぎになったものである。

イ その後、現在に至るまで、被控訴人が未成年者らと会うことはあっても、控訴人も被控訴人も、夫婦としての関係を修復するための具体的な行動は何もとっておらず、かえって被控訴人においても、控訴人の自宅への立ち入りを拒絶し、離婚に備えて未成年者らとの関係を維持するためのフランスのビザ取得の方法や内容等を相談するなどして、控訴人との婚姻関係の破綻を前提とする行動をとっており、もはや二人の婚姻関係が修復される見込みはないと考えられる。なお、証拠〈省略〉によれば、控訴人と被控訴人は、フランス大使館の勧めで、結婚問題に詳しい専門家であるサイコロジストに数回会ったことが認められるが、別居後であったと認めるに足りる証拠はなく、もちろん、そのことによって控訴人と被控訴人の婚姻関係がわずかでも修復された様子はない。

ウ 被控訴人は、原審において、離婚の意思がないと供述しているが、それは、もはや控訴人に対する愛情に基づくものではなく、離婚が成立して控訴人が未成年者らをフランスに連れ帰ってしまうのではないかと恐れてのことであり、控訴人が申し立てた離婚調停においても、被控訴人が未成年者らの親権を取得できれば、控訴人との離婚自体には応じていたのではないかと推認されるところである。本件では、上記認定の一連の事実を考慮すれば、控訴人と被控訴人との婚姻関係は、遅くとも平成24年9月頃には決定的に破綻していたものと認めるのが相当であり、これに反する被控訴人の原審供述を採用することはできないのであって、本件については、民法770条一項五号所定の「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当するというべきである。