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不倫問題

不貞行為第三者に対する夫との同棲差止請求棄却裁判例全文紹介2

○「不貞行為第三者に対する夫との同棲差止請求棄却裁判例全文紹介1」の続きで、裁判所の判断部分です。
 さすがに、被告のプラトニックラブであり、肉体関係はないとの主張は排斥されています。夫Aが、被告と口裏を合わせて、肉体関係まではないと言い張っていれば判断も認定も違ってきたのでしょうが、A自身が被告との肉体関係を認めている以上、裁判官としても認めざるを得なかったのでしょう。
 慰謝料1200万円の請求に対し、300万円も認めていますが、これは関係が20年近く継続していること、事実上離婚状態となっていることを考慮しての金額と思われます。

○同棲差止請求については、「差止めは、相手方の行動の事前かつ直接の禁止という強力な効果をもたらすものであるから、これが認められるについては、事後の金銭賠償によっては原告の保護として十分でなく事前の直接抑制が必要といえるだけの特別な事情のあることが必要である。」との原則論から、「同棲によって侵害されるのはもっぱら原告の精神的な平穏というほかない。このような精神的損害については、同棲が不法行為の要件を備える場合には損害賠償によっててん補されるべきものであり、これを超えて差止請求まで認められるべき事情があるとまでは言えない。」と丁寧に理由付けして排斥しています。当然の結論です。

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第三 争点に対する判断
一 争点(1)(不貞の有無)について
(1) 事実経過について

 甲11、乙1、原告及び被告各本人尋問の結果、弁論の全趣旨並びに後掲各証拠によれば、次の事実が認められる。
(ア) 原告とAは、昭和50年に婚姻し、同51年に長女を、同54年に長男をもうけている(甲1)。被告は昭和50年に婚姻し、同52年に長男をもうけたが、夫は平成元年に死亡した。

(イ) Aは、昭和54年に被告が当時勤務していた小学校に赴任し、間もなく、Aと被告の交際が始まるようになった(甲5)。
 昭和62年4月に被告とAが宴会の後に朝帰りすることがあった。これについて被告の夫から原告方に電話があり、被告がAと宿泊したのではないかとの話であったため、原告が被告にAとホテルに宿泊したのではないかと電話で問いただし、被告はこれを認めた(甲11)。
 被告は、遅くとも平成元年ころから自己名義の銀行キャッシュカードをAに手渡し、これを自由に使わせていた(甲4、9)。また、自己名義の携帯電話をAに渡し、メッセージを入れるなどもしていた(甲10)。

(ウ) Aは、被告と肉体関係があることを原告に対しても述べたり、被告と原告を比べるような話をしたりしていた。
 そして、平成9年11月ないし12月ころ、Aは原告に対し、離婚してほしいと申し向けるようになった。そこで、同10年3月終わりころ、Aの両親が来阪してAと話しあうなどした結果、Aは被告と別れる旨述べた。
 ところが、同年5月14日、Aが深夜になって被告の運転する車に乗って帰宅したことがあり、これを契機に原告はAとの離婚を考えるようになった。ただ、原告としては、Aが原告と離婚した後被告と結婚等するのは許せないと感じ、被告とAにおいて結婚等しないならばAとの離婚に応じるので、被告もその旨の書面を作成するように要求した。しかし、被告は、これに応じなかった(以上につき甲6ないし8)。
 Aは、その直後から家を出て原告と別居するようになり、原告には居住先も教えていない。なお、被告はAの居住先を知っており、同人の衣類を被告方で洗ってやるなどしている(甲3)。また、被告はAとの結婚を希望している。

(2) 原告供述の信用性について
 なお、被告は、(1)の事実認定の前提となる原告記載によるノート(甲6ないし8)の内容の信用性について争っている。しかし、ノートの記載内容は非常に具体的かつ赤裸々で、原告自身にとってのプライバシーや名誉に関わりかねないことについても詳細に書かれている。そして、原告本人尋問の結果とも、よく内容が合致しており、他の証拠から認められる事情にも沿った内容となっている。また、ノートの記載内容の信用性を疑わせる事情も窺えない。したがって、ノートの内容は信用できる。

(3) 不貞行為の有無について
 (1)での認定事実に照らすと、被告とAにおいては遅くとも昭和62年ころから不貞関係にあったものと認められる。
 なお、これについて、被告は、Aとの間では肉体関係はおろかキスもしたことがなく、抱擁してもらったことがある程度であって、いわゆるプラトニックな関係である旨本人尋問で述べている。
 しかしながら、前記のとおり、Aにおいては、被告との肉体関係を認めていることが認められる。また、交際の経緯を見ても、被告とAとの交際は両者が30歳前後の若いころから既に20年近くにわたって継続しており、両者間の関係は深いものになっていることが窺える。また、Aも被告もそれぞれ子どもをもうけた身であって当然に性経験はあり、Aはそれなりに活発な性的欲求を持っていること(甲6ないし8)も窺える。そして、被告はAとの結婚を希望しているところである。

 他方、被告は、Aとの交際がプラトニックな関係にとどまっている理由として、原告の家族のことを考慮してのことであると述べる。しかしながら、交際の経緯や先に挙げた諸事情に照らすと、この理由は納得できるものではない。
 そうすると、被告とAとには肉体関係があったと認められるのである。

(4) 慰謝料額
 以上検討したところによれば、被告はAと不貞関係にあったと認めることができる。そして、不貞行為の期間が長期にわたること、最終的にAが原告と別居するに至ったこと、もっとも不貞関係になるに当たって被告とAとのいずれが主導的であったかについては明らかでないこと等、不貞行為の経過、態様及び影響等について証拠上認められる諸事情を総合的に考慮すると不貞行為によって生じた原告の精神的苦痛を慰謝する額としては金300万円を相当と考える。

二 争点(2)(差止め請求の可否について)
(1) 原告は、被告がAと会うことについての差止めも求めているが、被告がAと会うこと自体が違法になるとは到底いえないから、少なくともこの部分については請求に理由がないことは明らかである。

(2) そこで、次に被告とAとの同棲の差止めを求めた部分について検討する。
 差止めは、相手方の行動の事前かつ直接の禁止という強力な効果をもたらすものであるから、これが認められるについては、事後の金銭賠償によっては原告の保護として十分でなく事前の直接抑制が必要といえるだけの特別な事情のあることが必要である。

 そこで、本件におけるそのような事情の有無についてみると、原告とAは婚姻関係こそ継続しているものの、平成10年5月ころからAは家を出て原告と別居しており、原告に居所を連絡してもいない。これに加えて、先に認定した経緯をも考慮すると、両者間の婚姻関係が平常のものに復するためには、相当の困難を伴う状態というほかない。そして、原告もまたAとの離婚をやむなしと考えてはいるものの、Aが被告と同棲したりすることはこれまでの経緯から見て許せないということからAとの離婚に応じていないのである。

 そうすると、今後被告とAとが同棲することによって、原告とAとの平穏な婚姻生活が害されるといった直接的かつ具体的な損害が生じるということにはならない。同棲によって侵害されるのはもっぱら原告の精神的な平穏というほかない。このような精神的損害については、同棲が不法行為の要件を備える場合には損害賠償によっててん補されるべきものであり、これを超えて差止請求まで認められるべき事情があるとまでは言えない。
 よって、原告の差止め請求については理由がない。
(裁判官小林宏司)