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小松亀一法律事務所は、「男女問題」に熱心に取り組む法律事務所です。

離婚要件

有責配偶者離婚を初めて認めた昭和62年9月2日最高裁判決紹介3

○「有責配偶者離婚を初めて認めた昭和62年9月2日最高裁判決紹介2」を続けます。
今回は補足意見です。

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裁判官角田禮次郎、同林藤之輔の補足意見は、次のとおりである。
 我々は、多数意見とその見解を一にするものであるが、離婚給付について、若干の意見を補足しておくこととしたい。
 多数意見は、民法770条1項5号所定の事由による離婚請求がその事由につき専ら責任のある有責配偶者からされた場合に、当該請求が信義誠実の原則に照らして許されるものであるかどうかを判断する一つの事情として、離婚を認めた場合における相手方配偶者の経済的状態が斟酌されなければならないとし、相手方配偶者が離婚により被る経済的不利益は、離婚と同時又は離婚後において請求することが認められている財産分与又は慰藉料により解決されるべきものであるとしている。

 しかし、右の経済的不利益の問題について、これを相手方配偶者の主導によつて解決しようとしても、相手方配偶者が反訴により慰藉料の支払を求めることをせず、また人事訴訟手続法(以下「人訴法」という。)15条1項による財産分与の附帯申立もしない場合には、離婚と同時には解決されず、あるいは、経済的問題が未解決のため離婚請求を排斥せざるをえないおそれが生ずる。

 一方、経済的不利益の解決を相手方配偶者による離婚後における財産分与等の請求に期待して、その解決をしないまま離婚請求を認容した場合においては、相手方配偶者に対し、財産分与等の請求に要する時間・費用等につき更に不利益を加重することとなるのみならず、経済的給付を受けるに至るまでの間精神的不安を助長し、経済的に困窮に陥れるなど極めて苛酷な状態におくおそれがあり、しかも右請求の受訴裁判所は、前に離婚請求を認容した裁判所と異なることが通常であろうから、相手方配偶者にとつて経済的不利益が十全に解決される保障がないなど相手方配偶者に対する経済的配慮に欠ける事態の生ずることも予測される。

 したがつて、相手方配偶者の経済的不利益の解決を実質的に確保するためには、更に検討を加えることが必要である。
 そこで、財産分与に関する民法768条の規定をみると、同条は、離婚をした者の一方は相手方に対し財産分与の請求ができ、当事者間における財産分与の協議が不調・不能なときは当事者は家庭裁判所に対して右の協議に代わる処分を請求することができる旨を規定しているだけであつて、右規定の文言からは、協議に代わる処分を請求する者は財産分与を請求する者に限る趣旨であるとは認められない。

 また、人訴法15条1項に定める離婚訴訟に附帯してする財産分与の申立は、訴訟事件における請求の趣旨のように、分与の額及び方法を特定してすることを要するものではなく、単に抽象的に財産分与の申立をすれば足り(最高裁昭和39年(オ)第539号同41年7月15日第二小法廷判決・民集20巻6号1197頁参照)、裁判所に対しその具体的内容の形成を要求すること、いいかえれば裁判所の形成権限の発動を求めるにすぎないのであつて、通常の民事訴訟におけるような私法上の形成権ないし具体的な権利主張を意味するものではないのであるから、財産分与をする者に対して、その具体的内容は挙げて裁判所の裁量に委ねる趣旨でする申立を許したとしても、財産分与を請求する側において何ら支障がないはずである。

 更に実質的にみても、財産分与についての協議が不調・不能な場合には、財産分与を請求する者だけではなく、財産分与をする者のなかにも一日も早く協議を成立させて婚姻関係を清算したいと考える者のあることも当然のことであろうから、財産分与について協議が不調・不能の場合における協議に代わる処分の申立は財産分与をする者においてもこれをすることができると解するのが相当というべきである。

 以上のような見地から、我々は、人訴法15条1項による財産分与の附帯申立は離婚請求をする者においてもすることができると考える。そしてこのように解すると、有責配偶者から離婚の訴えが提起され、相手方配偶者の経済的不利益を解決しさえすれば請求を許容しうる場合において、相手方配偶者が、たとえば意地・面子・報復感情等のために、慰藉料請求の反訴又は人訴法15条1項による財産分与の附帯申立をしようとしないときは、有責配偶者にも財産分与の附帯申立をすることを認め、離婚判決と同一の主文中で相手方配偶者に対する財産分与としての給付を命ずることができることになり、相手方配偶者の経済的不利益の問題は常に当該裁判の中において離婚を認めるかどうかの判断との関連において解決され、さきに我々が憂慮した相手方配偶者の経済的不利益の問題の解決を全うすることができることになるのではないかと思うのである。