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小松亀一法律事務所は、「男女問題」に熱心に取り組む法律事務所です。

年金分割制度等

離婚時年金分割制度の按分割合は2分の1が大原則

○「厚生年金法の離婚時年金分割制度と民法の財産分与制度とは別物」を続けます。離婚時年金分割制度は、財産分与制度とは別物で、財産分与より遙かに2分の1との原則性が強いと家裁実務で考えている裁判例を紹介します。平成20年3月14日広島高裁審判で、事案は以下の通りです。

・AとBは平成12年6月(日は不明)婚姻後、平成17年4月別居し、平成18年Aが離婚の訴えを提起し、Bも離婚の反訴を提起し、平成18年8月、和解により離婚成立。婚姻期間6年2ヶ月(74ヶ月)の間2年4ヶ月(28ヶ月)は別居。
・Aは、@年金分割の按分割合を定めるに当たり破綻別居の期間は貢献度なしとして考えるべきである,
A婚姻期間中に相手方が約840万円を浪費又は隠匿した事実は貢献度が低いものとして考えるべきである
旨の主張に対し,単に「特別な事情に当たるものとは認められない」とのみ説示して排斥したものであり,これは,理由不備である上,結論としても厚生年金保険法788条の2第2項の解釈を誤っている旨主張
 

これに対する平成20年3月14日広島高裁審判要旨は以下の通りです。
・抗告人の主張する2年4か月の別居期間は、請求すべき按分割合を定めるに当たって斟酌しなければ不相当というべきまでの明白な破綻別居期間と認定することはできない。
・相手方による財産の浪費又は隠匿は、仮にあるとしても財産分与等で解決すべき事項であるから、いずれも按分割合を定めるに当たって双方の寄与を同等とみることの例外を認めるべき特別な事情にあたらない。


○この審判では、婚姻期間中約38%の期間別居でも、この別居期間を直ちに婚姻期間から除外すべきでないとし、更にA主張のBの840万円の浪費又は隠匿に係る事実については、離婚に伴う財産分与等で解決すべき事項であるから,上記事実は,前記の特別の事情に当たるものと認めることはできないとして、年金分割請求と財産分与が別物であることを前提としていることが注目されます。別居期間中の婚姻破綻程度、また浪費又は隠匿に係る事実の立証程度が不明ですが、年金分割を認めたくない場合、離婚の裁判で年金分割についても取り決めしておかないと年金分割請求は原則2分の1認められることに注意が必要です。

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第2 当裁判所の判断 
1 当裁判所も,抗告人と相手方との間の原審判別紙1記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合を,0.5と定めるべきものと判断する。その理由は,抗告人の抗告理由に鑑み,次のとおり補足するほかは,原審判の「理由」中の「2 当裁判所の判断」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。 

(1)抗告人は,原審判が,抗告人の「@年金分割の按分割合を定めるに当たり破綻別居の期間は貢献度なしとして考えるべきである,A婚姻期間中に相手方が約840万円を浪費又は隠匿した事実は貢献度が低いものとして考えるべきである」旨の主張に対し,単に「特別な事情に当たるものとは認められない」とのみ説示して排斥したものであり,これは,理由不備である上,結論としても厚生年金保険法78条の2第2項の解釈を誤っている旨主張する。 

(2)破綻別居期間について 
 本件記録によれば,抗告人は,平成12年6月×日相手方と婚姻後,平成17年4月×日に別居して,同年×月には離婚調停申立てがなされたが不成立となり,平成18年中に離婚等を求める訴えを提起し,相手方も離婚等を求める反訴を提起し,同訴訟中で,平成19年8月×日成立した和解において離婚したものであることが認められるところ,抗告人は,平成17年4月×日からは破綻別居期間であるから,上記期間は按分割合を定めるに当たって対象となる婚姻期間には含まれないと考えるべきである旨主張するが,按分割合を定めるに当たって,事実上の離婚状態にあることが客観的に明白な破綻別居期間を対象の婚姻期間から除外すべきであるとしても,別居したことから直ちに,婚姻関係が破綻して事実上の離婚状態になっていたものとはいえず,本件記録を精査しても,按分割合を定めるに当たって斟酌しなければ不相当というべきまでの明白な破綻別居期間の存在を認定することはできない。 

 そうすると,原審判は,当該別居期間について,厚生年金保険法78条の2第2項の「当該対象期間における保険料納付に対する当事者の寄与の程度その他の一切の事情」として考慮して判断し,按分割合を定めるに当たって双方の寄与を同等とみることの例外を認めるべき特別な事情に当たらないものと説示したものというべきであって,厚生年金保険法78条の2第2項の解釈を誤ったものとはいえないし,理由不備の違法があるともいえない。 

(3)相手方の浪費又は隠匿について 
 抗告人が主張する浪費又は隠匿に係る事実があったとしても,当該事項は,離婚に伴う財産分与等で解決すべき事項であるから,上記事実は,前記の特別の事情に当たるものと認めることはできない。 

2 よって,原審判は相当であるから,本件抗告はこれを棄却することとし,主文のとおり決定する。 
 (裁判長裁判官 礒尾正 裁判官 金馬健二 永谷幸恵)

(参考)
厚生年金保険法78条の2第2項
2 前項の規定による標準報酬の改定又は決定の請求(以下「標準報酬改定請求」という。)について、同項第1号の当事者の合意のための協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者の一方の申立てにより、家庭裁判所は、当該対象期間における保険料納付に対する当事者の寄与の程度その他一切の事情を考慮して、請求すべき按分割合を定めることができる。